第十三話 確信/蒙昧
「ねぇねぇおねぇちゃん、どうやったら、忘れたくないことを忘れないようにできるかな?」
一人じゃない生活にも次第に慣れてきた、ある日。いつものようにソファで話していると、レイは突拍子もなく、そんなことを尋ねてきた。
「? 急にどうしたの?」
「えっと、あのね? なんだかわたしって、すっごく忘れっぽいの。おぼえておきたいことはいっぱいあるんだけど、どうしてもすぐ忘れちゃって。どうすれば、あたらしいことが出来るようになるかなぁって、いっつも悩んでるの」
「な、なるほど」
さて、どうしたものか。可愛い妹の悩みをスパッと解決してあげたいところではあるけど、なんせ私は人生経験がからっきし。今まで『何かをできるようになりたい』なんて思ったことがないのだから、良いアドバイスが送れるはずがない。
でも、私はレイのお姉ちゃんだ。『分からない』と言って、彼女の期待を裏切るようなことはしたくない。
と、なれば。
「ごめん、レイ。ちょっと、時間もらっていい?」
まずは一度自分の部屋に戻って、何かいい方法が無いか調べてみることにしよう。裏返ってはいるけど、ここが科学に溺れている世界であることに変わりはない。なんらかの妙案が見つかってくれると信じて、まずは文明を頼ってみよう。
◆
と、意気込んでみたはいいものの。
「ぜんっぜん、だめだ……」
一人で呟きつつ、ベッドの上で大の字になる。もはや通話機能が完全にお荷物となっている腕時計型端末に『子供 記憶力向上』やら『忘れっぽい 改善』やらと音声検索をかけてみたが、文明の利器は良い返事をくれなかった。どれもこれも、勉学に励む学生向けの情報ばかり。レイのような幼い子供がすぐ簡単にできる方法は、残念ながら見つけられなかった。巷ではタイムマシン開発とか老衰克服とかなんとか色々言っているが、科学様にはまず子供の些細な願いを叶えてほしいものだ。
どうしようもない文句を胸の内で垂れつつ、なんとなしに端末の液晶を見つめてみる。少し首を傾けると、窓外の青空が目に映った。見た目は文句なしにクリアだが、迷子の雲がふわふわ浮かんでいるようにも見える。どこか現実味が無くて、少し眠くなってきた。
──と、まさにあくびが出そうになった時。突如として、その出来事は起きた。
『あーあ、ダメダメ。全然ダメねぇ。アンタ、調べものがヘッタクソ!』
なんか、急に。端末が勝手に、喋り始めたのである。
「は? なに、コレ……?」
思わず身体を起こし、液晶とにらめっこ。まずは自分の空耳を疑ってみる。
『アレ? もしかして、コッチの声聞こえちゃってるかしら?』
空耳じゃあないな。
『あちゃあ、コッチからの回線も開いちゃってたかぁ。失敗失敗』
「……」
まるで状況が理解できない。科学にケチをつけていたら、急に端末が喋り始めた。もしや科学の使者が私に文句をつけに来たのではなかろうな。
あれ、でも、なんか……
『そっちからの回線だけ開いて音だけ聞いとくつもりだったけど……まあ、バレちゃったら仕方ないかぁ』
この声、どこかで聞いたような──
【もうっ! いつになったら学校来るのよ! アンタが来るまでアタシ、絶対あき
らめないから!! アンタが声を聞かせてくれるまで、何回だって連絡してやるんだからね!!】
「──少女、X?」
『え? 急に何言ってるの? エックス?』
ああ、やはり間違いない。この明朗快活な声は、間違いなく彼女だ。
いくら私でも、さすがに毎日聞かされている声は聞き間違えない。
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