第十二話 否認/是認
レイと笑い泣き合ってからは、私の日常は劇的に変化を遂げることとなった。何年も代り映えしなかった灰色の景色が、少しずつ色づいていくような感覚になった。
「おはよう。お父さん、お母さん」
まず、朝起きてから部屋を出るようになった。リビングに出て、家族に挨拶をするようになった。単純ながら、最も大きな変化だ。
「おう! おはよう、ケイ!」
「おはよう、ケイちゃん」
正直、まだ父と母に気を許せていない部分はある。父は明るく、母は優しいけれど、どうしても距離を置いてしまう。
確かに、彼らは善人だ。でも、それは反転世界に限った話。子供のレイと違って、二人は善悪が逆転して、今の穏やかな善人になった可能性が高い。
つまり。彼らは元々、悪人だった疑いがある。
私はそんな二人を手放しで親として受け入れられるほど、人が出来ていない。たとえ今この瞬間が善人だったとしとも、『元は悪人だ』という事実がチラついてしまう。本能的に、彼らを拒んでしまうのだ。
じゃあ、どうして私が部屋を出るのか? もちろん、決まっている。
「おはよう、おねぇちゃん!」
それはひとえに妹、レイのためだ。
「うん。おはよう、レイ」
彼女の笑顔を見たいから。もう寂しくなりたくないし、寂しい思いもさせたくないから。私は彼女と会うために、今日も独りをやめるのだ。
以来、あの白い夢を見ることも無くなった。学校に行っているわけではないから、まだ少女Xからのメッセージはひっきりなしに届くけれど、空虚に一日を過ごすことも無くなった。これが褒められた人生だ、なんて口が裂けても言えないけど、多少は人間らしい生活をするようになったと思う。
だって。今の私には、生きる理由がある。レイが居てくれれば、私は生きていたいと思える。
反転してない私たちは、ずっと一緒に居られるから。たとえ世界がもう一度裏返って父と母が醜くなっても、私たちは私たちのままでいられる。もし世界が元に戻ったなら、その時は家を出て二人で生きていこう。
そうだ。大切な人が居るなら。世界もきっと大切だし、滅んでほしくないと思える。当たり前のこと。単純で明快な話。誰でもきっと理解していること。
それを知ることができただけでも。
私は、お姉ちゃんになれてよかった。
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