(幕間)SISTER

 うまれたときからずっと、わたしは、とっても忘れっぽいです。三日前に聞いたことも、二日前に聞いたことも、すぐに忘れちゃいます。


 だから、最初からできたことしかできません。教わっても、教わっても、おんなじことしかできません。なんでできないのかも、わかりません。

 ほんとは、いろんなことをやってみたいです。おともだちと遊んだり、楽しくおべんきょうしたり、してみたいです。おうちの中にいたらおとうさんとおかあさんがお話してくれるけど、ほんとはお外で、もっとちがうことをしてみたいです。

 でも、お外に出ると、みんなわたしのことを「バカ」っていいます。

 なんでそんなこともできないの? って。

 なんですぐに忘れちゃうの? って。

 でも、そんなこと、わたしにもなんでなのかわかりません。

 みんな、わたしといると、とってもむつかしい顔をします。

 たぶん、わたしはみんなとちがうんだとおもいます。

 だから、わたしといると、みんなはたのしくないんだとおもいます。

 わたしは、ずっとひとりです。

 お外にいるときは、とってもさみしいです。


 ……さみしいのは、胸がチクチクするから、イヤです。

 ある日、わたしにおねぇちゃんが出来ました。ほんとはおねぇちゃんなんていなかった気がするけど、変なロボットさんから頭をコツンって触られてからは、なんだかほんとうにおねぇちゃんがいるような気がしてきました。あと、すっごくこわかった、おとうさんとおかあさんが、とってもやさしくなりました。あのロボットさんはたぶん、おうちに魔法をかけたんだとおもいます。


 ロボットさんはわたしに変なペンダントをくれると、どこかに飛んで行ってしまいました。このペンダントをかけてると、こころがやみにしはいされた? 時に、キラキラ光ってくれるっていってました。わたしにはむつかしくてよくわかりません。


 おねぇちゃんは、ひとりが大好きです。ずっと、ずーっと、お部屋の中にいます。おとうさんとおかあさんが声をかけても、ぜんぜんお返事してくれません。そのうち、おかあさんたちは「そっとしておいてあげよう」って言って、おねぇちゃんに声をかけなくなりました。


 わたしは、それはなんだか、とってもさみしいなぁって、おもいました。


 ひとりは、さみしいです。さみしいと、胸がチクチクします。


 だからおねぇちゃんも、わたしとおんなじなんじゃないかなって、おもいました。


「おねぇちゃん! おねぇちゃん!!」


 ひとりはさみしいから、毎日寝る前に、おねぇちゃんとお話することにしました。忘れっぽいわたしだけど、たぶん毎日忘れずにできてるとおもいます。


「あのね! 今日はね?」


 でも、おねぇちゃんは、やっぱりお返事してくれません。


「じゃあね! おやすみ、おねぇちゃん!」


 おねぇちゃんは、もしかしたらわたしのことが嫌いなのかもしれません。


 でも、わたしはおバカだから、あんまり気にしませんでした。

 おねぇちゃんがさみしくなくなるなら、それでいいとおもいました。

 今日はたまたま、おとうさんとおかあさんがおうちにいませんでした。

 おうちにはおねぇちゃんがいるけど、やっぱり今日もお部屋から出てきてくれません。なんだかさみしくなったわたしは、いろんな声が聞きたくなって、ひとりでお外に出ることにしました。


「ははは! なんだ、このボロッちいペンダント!」


 しっぱいでした。わたしをずっとバカとかチビとか言ってくる男の子たちに、見つかっちゃいました。


「やーい、チービチービ!」

「ほらほら、取り返してみろよーだ!」

「へへへ、全然届かないでやんのー!」


 たしかにボロっちいけど、せっかくロボットさんがくれたものなので取り返そうとしました。だけど、ちっちゃいわたしがいくらジャンプしても、ぜんぜん届きません。


「ぐすっ……うっ……やめて、よぉ……」


 すぐに、泣いちゃいました。ぽろぽろ。ぽろぽろ。どんなにがまんしても、涙が止まらなくって。


 たぶん、わたしは心もちっちゃいんだとおもいます。


「おねぇちゃん……おねぇちゃん……!」


 なんでかはわからないけど、わたしはおねぇちゃんを呼んでました。

 たぶん何回も何回も呼んでたから、いちばん言いやすかったんだとおもいます。


「こ、こらっ! わ、私の妹をイジメるなぁーー!!」


 でも、ほんとに来てくれるとおもってなかったから。

 うれしくて、びっくりしちゃいました。

 おうちに戻ると、おねぇちゃんはわたしをぎゅってしてくれました。あったかくて、とってもきもちいいです。おねぇちゃんは髪も指もとってもキレイで、ちょっぴりいいにおいがします。


「ごめん……ごめんね、レイ」


 でも、さっきからずっと、おねぇちゃんはかなしそうです。わたしはとってもうれしいのに、おねぇちゃんはすごくつらそうです。


「どうしてレイは、そんなに私を気にしてくれるの?」


 するとおねぇちゃんは、ものすごくかんたんなコトを聞いてきました。


 ほんとに、かんたんなコトです。


「だって、おねぇちゃん、さみしそうだったから」


 ──ひとりは、さみしいです。


「さみしいのは、いやだから」


 ──さみしいと、胸がチクチクします。


「わたしも、ずっとさみしかったから」


 おバカなわたしでもすぐ答えれるくらい、かんたんなコトです。


「あ、れ──」


 でもおねぇちゃんは、むつかしい顔をしたあと。


「こんな──なんで、私──?」


 ポロポロと、泣き出しちゃいました。

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