第21話 異能発揮

 変身を終えて、陸翔君があたしをもふり終わったところで、思い出したようにあたしは言った。


「ところで相埜先輩、あたし今宝玉獣カーバンクルになってるってことは、宝玉獣カーバンクルの異能が使えるわけですよね?」

「そうだな、やってみるか」


 そう、せっかく変身して、変身した生き物の能力を何も使わない、なんてのはもったいないのだ。あたしの言葉にうなずいた相埜先輩が、部室の棚を漁り始める。


「たしかここに……あぁ、あった、これだ」


 しばらくゴソゴソとやってから、先輩が持ってきたのは小ぶりなガラスの瓶だった。それをテーブルの上に置きながら、先輩は言う。


宝玉獣カーバンクルの異能発揮には、こいつを使う」


 そう言いながらあたし達に見せてきたのは、色とりどりのビーズだった。つやつやとした、まん丸のビーズ。素材は石製のようで、いろいろな色、模様が入っている。


「これ……ビーズ?」

「天然石のビーズ、か? それにしちゃーでっかいけど……」


 あたしと陸翔君が揃って瓶の中のビーズを覗き込み、蓋を開けて中から取り出す。なるほど、確かに言われてみれば、スピリチュアルな事柄にもよく使われる天然石だ。

 相埜先輩が小さくうなずく。


「直径20mmの天然石ビーズだ。水晶、虎眼石タイガーアイ瑪瑙めのう翡翠ひすい……まあ、いろいろある」


 そう話しながら、相埜先輩が瓶の中のビーズを一つつまみ上げる。手のひらでそれをころころ転がしながら、先輩は説明を始めた。


宝玉獣カーバンクルの異能は、自分の近くにある石や宝石、鉱石と同調し、その石の持つ力を増幅して周囲に発揮するものだ。水晶なら浄化と運気上昇の力、瑪瑙なら対人関係の向上の力……それを周囲にもたらすことで、能力の全体的な底上げを図る」


 そう話しながら、先輩は手のひらに乗せた水晶のビーズをあたしに見せてくる。

 天然石には色んな種類があり、その石ごとに色んな効果がある。もちろん、普通ならお守りと大差ないくらいの効果しか発揮しないし、結局は持ち主の気の持ちよう、ではあるのだが、宝玉獣カーバンクルの異能はその効果を、無視できないレベルまで引き上げるのだ。

 それだけならまだしも、その効果を自身に対してだけではなく、周囲の人間や動物に対しても発揮することができる。つまり、味方全体にバフをかけられる異能なのだ。

 相埜先輩がビーズを軽く宙に放り、キャッチしながら言う。


「だから、『宝玉獣カーバンクル』の異能力者ホルダーは集団で行動する組織の中で特に重宝されるんだ。そこにいるだけで集団が普段以上の力を発揮できるようになるからな。だから部活のマネージャーなどになっていることが多い」

「へぇー……そう言えば確かに、スポーツの大会とかでもよく姿を見る気がします」


 先輩の言葉にあたしも声を発する。確かにプロのスポーツチームなんかにも、マスコットとして宝玉獣カーバンクルがいたり、その獣人がいたりすることがある。あれはただ可愛いからじゃなくて、そうしたバフを期待してのことなわけか。

 納得するあたしに、相埜先輩が手に持っていた水晶のビーズを手渡してきた。


「そういうことだ。とりあえず、一番万能な効果を持つ水晶からやってみよう」


 渡された水晶のビーズを、あたしは手のひらに乗せた。毛の生え揃った手のひらで、丸いビーズが緑色の毛に埋もれている。透明な水晶を通して、あたしの毛の緑色が見えていた。

 同調とは言うが、どうやってやればいいんだろうか。手のひらに乗せたビーズを見つめながら、あたしは問いかける。


「こう、持ってればいいんですか?」

「なんなら手に持っていなくて、身につけている程度でも問題はない。だが、天然石を自分の体の一部だと思うように、自分の気を石に通わせるんだ。そうするには、手に持っているのが一番やりやすい」


 あたしの質問を受けて相埜先輩がこくりとうなずく。なるほど、自分の体の一部。手のひらに乗せた水晶のビーズに液体を流すようなイメージで、気を通わせていく。


「こ……こんな感じ、で、いいんですか?」

「ん。そうだ、そのまま続けろ」


 ちゃんと出来ているのか不安で、ついつい相埜先輩に問いかけてしまう。なにぶん初めてなのだ、どういうふうになれば成功なのかも分からない。

 と、しばし気を通わせていると、目の上、額のあたりで何かが光った。


「おっ……?」


 思わず声を漏らすと、あたしの顔を見た相埜先輩が腕を組んだ。隣で陸翔君も笑っている。


「よし、同調できたな」

「和泉、鏡でおでこ見てみろよ」


 おでこ、と言われてキョトンとするあたしだ。おでこに何か変化があるのなら、それは鏡を見ないと分からない。

 言われるがまま、あたしは部室の大きな鏡の前に立った。


「おでこ? ……わっ、なんか違う」


 鏡で自分の姿を見て、ようやくあたしはあたしの変化に気が付いた。

 これまで、おでこにはまっている宝玉は赤く、ルビーのように輝いていたのだが、その宝玉が無色透明、あたしが手にしている水晶と同じものになっているのだ。

 相埜先輩がこくりとうなずきながら言う。


宝玉獣カーバンクルは石と同調すると、額の宝玉が変化する。今は水晶と同調しているから、お前の額のそれも水晶になっているわけだ」

「すごーい……これで、浄化とか、運気上昇とか、出来るってことですか?」


 感心しながらあたしが問いかけると、相埜先輩が難しい表情になった。確かに、場所の浄化とか、運気アップとか、いまいち効果が分かりにくい。


「そうだな、だが、何なら分かりやすいか……」

「運気……あ、そうだ!」


 相埜先輩が悩む隣で、何かを思い出した陸翔君がスマートフォンを取り出した。画面を起動させて、某有名なスマホゲームを起動させながら言う。


「あの、先輩! その運気上昇って、スマホゲームのガチャにも効くっすかね!?」

「スマホゲーム……ああ、なるほど。水晶の運気上昇は全体的な運の上昇だから、効果はあるだろうな。今出来るならやってみろ」


 陸翔君の言葉に考える姿勢になった相埜先輩だが、すぐに合点がいったようでうなずいた。なるほど、確かにスマホゲームでガチャを引いて、高レアなキャラやアイテムが出てきたら、効果の程が分かりやすい。


「じゃ、起動させて……お、ちょうどいい具合に10連チケット貰えてるじゃん。これでやってみるぞ」


 スマートフォンの画面を見た陸翔君が、嬉しそうに声を上げる。ガチャチケットが配布されているなら好都合だ、課金しなくてもガチャが引ける。

 ガチャの画面に行って、ちょうど今開催されている期間限定キャラをピックアップしたガチャを表示する。どうしよう、これで爆死したら目も当てられないし、陸翔君にも申し訳がない。今更ながらに不安になるあたしだ。


「じゃあ、引くぞ」

「うん……」


 二人で顔を見合わせて、ゴクリとつばを飲み込む。そしてあたしが見つめる中で、陸翔君が10連ガチャを回すボタンを押した。

 ガチャの演出画面が表示されて、すぐのこと。画面にある召喚の魔法陣が虹色に輝き出した。


「うわ!?」

「えっ!?」

「なんだ、どうした」


 あたしと陸翔君が大声を上げるのを、何事かと相埜先輩が見に来る。

 あたしも知っている。この召喚演出は最高ランク確定・・・・・・・の演出だ。果たして魔法陣から姿を現したのは、まさに先程のガチャ画面でも姿を見せていた、ピックアップ対象のSSRキャラクターだ。


「一発目で最高ランクのレアが来たーっ!?」

「えっウソ、こんな顕著に出るもんなんです!?」


 まさかの抽選一回目で一発引き。豪運なんてもんじゃない。あまりの効果に、相埜先輩が困惑していた。


「う、うん、まぁ、出る時は出る、出るが……」

「うわー……あっ、また光った!?」


 呆気に取られる陸翔君が、ぽかんとしながらガチャ演出を眺めていると、また魔法陣が光り輝いた。金色の魔法陣、これは高レア確定の演出だ。

 果たして、10回の抽選が終わる頃には、まさしく大勝利と呼ぶに相応しい、信じられないくらいに高レアを引いた結果が表示されていた。


「すっげ……」

「SSR1体、SRも1体、SSR装備も出てる? なにこれ……」


 あたしも陸翔君も、あまりにも凄まじい結果に驚くどころか若干引いていた。こんなにものすごい効果を発揮できるなんて、あたしだってビックリだ。

 相埜先輩も、信じられないものを見る目で陸翔君のスマートフォンを見ている。


「信じられんな……これは本当に、もしかするかもしれんぞ、和山」


 相埜先輩の言葉に、あたしもうなずくしかない。

 これは本当の本当に、凄いことができるのかもしれない。あたしは喜ぶ陸翔君を見ながら、薄々と感じていた。

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