第15話 二人会話
紅茶の入った紙コップに口をつけつつ、相埜先輩があたしに問いかけてくる。
「和山。そもそもお前、異能甲子園に行って何がしたかった」
「何が……ですかぁ」
それを問われて、小さく眉尻を下げるあたしだ。何がしたいか、ということについてはある程度、イメージは出来ている。イメージは出来ているが、言葉にするとなると難しいものだ。
しばし頭を悩ませてから、あたしは紅茶を口に含み、飲み込んでから言った。
「私、あれなんですよ。ずっと、
「ほう」
橋渡しになりたい。それが昔からの夢であり、目標だった。
小さく声を漏らす相埜先輩に、
「異能甲子園って、
「まあな」
あたしの言葉に、相埜先輩は相槌を返してくれる。それがとても有り難かった。この人は愛想が悪いように見えるけれど、人の話はちゃんと聞いてくれるのだ。
紅茶の紙コップを両手で握るように持ちながら、あたしは口を動かす。
「そこでマネージャーとして、参加する出場者のサポートとか出来たら、って思ってたんですよ。
だからあたしは、将来的にはジムのインストラクターとか、ヨガの先生とか、そういう身体的な面の指導、サポートをする職業に就きたいな、と考えている。そういう意味でも、異能甲子園に関わったという事実は大きく働くはずだ。
それなのに、そのきっかけを目の前であたしは絶たれてしまったわけなのだ。
「でも、そのサポートも許されないってことだったから、どうしようかなって思ってて。運動部じゃないと運営スタッフにも入れないじゃないですか」
「まあ、そうだな」
あたしが悔しさをにじませながら言うと、相埜先輩が紅茶を啜りながら言った。
相埜先輩も
紙コップの縁を触りながら、相埜先輩が話す。
「確かに、巽山からも異能甲子園には人員の派遣がある。だがその派遣人員も
紙コップの縁から、周辺の紙部分へ。指を動かしながら相埜先輩は語る。
そう、異能甲子園に関われるのは、何度でも言うが
正直、これではあたしの目的は達成できない。あたしは
と、ここで相埜先輩があたしを見てにやりと笑った。
「だが、そのルールにも穴が一つある。
「あっ」
そう話しながら相埜先輩が触れるのは紙コップの縁、紙と紙の繋ぎ目のところだ。
異能甲子園の会場にはその名の通り阪神甲子園球場が使われるのだが、
センサーを通過した後は、
「そっか。入場する際に検査ゲートがあるんですもんね。中で検査しているわけじゃないし」
「そういうことだ。入場後に検査する設備があるわけではない。
あたしの言葉に、もう一度相埜先輩が紙コップに口をつける。中の紅茶をぐいと飲み干してから、相埜先輩はあたしを見てにやりと笑った。
いたずらっぽい、含みのある笑みだ。しかしその笑みにはずいぶんと、確信めいた自信が見えている。
「だが、どうせ
相埜先輩の発した言葉に、あたしはこくりとうなずいた。
これでも中学時代はバスケ部のエースだったのだ。大舞台で活躍することの喜びはよく知っている。あたしは、スポーツマンとして異能甲子園の舞台に立ちたい。立って、活躍したい。
「立ちたいです」
「そうだろう」
あたしの答えを聞いて、相埜先輩も満足そうにうなずいた。
立ちたい。競技に出たい。
あたしの瞳を見つめ返しながら、相埜先輩がきっぱりと言う。
「お前ならそれが出来る。出来ると信じている。『
先輩の言葉に、あたしもきりりと目尻を持ち上げた。こうまで言われたら真剣にもなる。
相埜先輩の「
と、そこでメタルラックの柱にくっつけられていたキッチンタイマーが音を鳴らした。15分経過の合図だ。
「あっ」
「ふむ、15分経ったか。見てみよう」
あたしが声を上げると、相埜先輩も立ち上がる。キッチンタイマーのアラームを止め、サンプルを滴下した紙を取り上げた。と、それを見た相埜先輩が目を見開く。
「ほーう。和山、見ろ」
「どうなってるんですか? これ……」
感心したように声を上げる相埜先輩が、紙をあたしに見せてきた。そこには
四角形に指を置きながら、相埜先輩が説明を始めた。
「先程滴下した溶液が色を持って、四角形を作っているのが分かるか。これがそのまま、そいつの適性を見るチャートになる」
その指が、四角系の四隅を順々に指し示す。これを見ると、全ての点が引かれたラインの真ん中を超えていた。中でも下向きの線に沿った点が、一番中心から離れているようにみえる。
その一番離れた点をトンと叩いた相埜先輩が、嬉しそうに笑みを見せた。
「これを見る限りでは、お前はどの系統の異能にも
「へぇー、すごい」
説明する相埜先輩に、感心するようにあたしは漏らした。
まさかあたしに、こんなに豊富な適性が眠っているとは思わなかった。なんでこれで異能が発現しないんだか不思議だが、これについては「異能に目覚めるための才能がない」と断じられているので仕方がない。
チャートに視線を落とすあたしを見ながら、相埜先輩が軽く肩を小突いてくる。
「おい和山、お前は本当に
「な、無いですってそんなこと。それだったら
先輩の軽口にあたしも返事を返しながら、しかしあたしはあたしの適性を示すチャートから目が離せないでいた。
これは、幸先がいいかもしれない。そんな事を考えながら、あたしは自分の才能を示す紙をまじまじと見つめていた。
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