第6話 校長挨拶
ホールに入った時には、もう10時まであと僅かだった。あんまり急いでトイレを済ませたものだから、いまいちスッキリしない。
ママとパパはどこだ、と視線を巡らせると、最後方の列でこちらを見て手招きするパパが目に入った。どうやら問題なく、席は取れたらしい。
陸翔君は既に前方の、既に確保していた席に戻っている。パパとママの隣に腰を下ろすと、ちょうどステージの端に高校の先生が一人立った。
「えー、オホン。お待たせいたしました、ただいまより令和四年度、学校法人巽山高校第九十七期生の入学式を開催いたします」
先生の挨拶に、会場内から拍手が巻き起こる。いよいよ、入学式だ。
「まず初めに、校長挨拶です。当校の校長、
先生が話すと、ステージ横からあごひげを長く伸ばした和服姿の老人が姿を見せた。年老いているように見えるが、背筋はピンと伸びているし、足取りもしっかりしている。見た目よりも若々しい印象だ。
この老人が、巽山高校の校長先生、相埜先生、ということだ。
マイクの前に立った相埜先生が、マイクの位置を調整してから口を開く。
「第九十七期生の皆さん、そのご家族の皆さん、入学、誠におめでとうございます。巽山高校の校長を務めております、相埜と申します」
「おぉ……!」
挨拶が始まると同時に、会場のあちこちからどよめきが上がった。
年老いた見た目の割に、ハリのある凛とした声だ。威厳と過ごしてきた年月を感じさせる。だが、周りのどよめきはそれとは少し違うようだ。
「まだ挨拶が始まったばかりなのに、すごいね」
「そりゃあなあ」
あたしが小声で隣のパパへと声をかけると、パパも小声で返しながら笑った。
やはりパパは、警察官という立場故に
「精霊系統、『
「えっ」
その話を聞いてあたしは思わず声を漏らした。100歳をとっくに超えているなんて、並大抵の人間じゃとても無理だ。いや、並の
その、超えた例を目の当たりにして驚くあたしの前で、人間の寿命を超越した当人は話し続ける。
「皆さんのような優秀な生徒を、今年も迎えることが出来たこと、校長として大変に嬉しく思います。そして無事に入学を決められた
「
両腕をゆるく広げながら話を続ける相埜先生。その姿に、声に、会場内の誰もが熱い視線を注いでいた。
ここで話しているのは生ける伝説、変身系の
「ここにある
それまで以上に言葉に力を込めて話す相埜先生に、ホール内は水を打ったように静まり返った。
変身系
入学前の三者面談でも水城先生がしっかり話してくれた。人間からともすれば外れてしまう彼らを、立派な
相埜先生は、あたし達をまっすぐに見据えながら口を開いた。
「第九十七期生にも、全部で8名、
相埜先生の言葉に、あたしは背筋が自然と伸びるのを感じていた。
これから3年間、あたしはここで、この環境で学ぶのだ。こんな力のある挨拶を最初にされたら、自然と気合も入る。
あたし達新入生が真剣な顔つきになったのが見えたか、相埜先生が小さく微笑んだのが見えた。
「皆さん、仲間と共に高め合い、磨き合い、立派な姿で卒業しましょう。皆さんの成長と健康を祈念しつつ、初めの挨拶といたします。皆さん、入学おめでとうございます」
そう締めくくり、相埜先生が深く一礼する。次の瞬間、大きな拍手がホールを包み込んだ。
あたしも拍手をしながら、感嘆の声を漏らしていた。
「ふわ……」
「凄いわ。こんなにはっきりと校長先生が言ってくれるなんて……」
あたしの隣で、ママも感動しながら言っている。保護者としても、校長先生がここまできっぱりと、
相埜先生がステージ脇に下がっていき、司会の先生が再びマイクに声を乗せた。
「ありがとうございました。では続いて、一年次の大まかなカリキュラムについて説明いたします。水城先生、お願いいたします」
次は一年生のカリキュラムの概要説明だ。出てきたのは水城先生、やはり学年主任ということもあり、こういう場面で説明をすることになるのだろう。
前に目にしたジャージ姿ではなくスーツ姿。ネクタイを直して、一礼してから水城先生が話し始める。
「はい、一年の学年主任を担当します、水城新太です。これから、一年生の皆さんのカリキュラムについて説明させていただきます」
水城先生は一つ咳払いをしながら話を始めた。先生が手元のリモコンを操作すると、スクリーンが降りてきてそこにパワーポイントの資料が映し出される。
やはり、カリキュラムの説明となるとこうした資料を見せながら、となるようだ。
「本日の入学式が終わりましたら、新入生の皆さんにはすぐに教室に行っていただき、初回ホームルームとレクリエーションを受けていただきます。5日もガイダンスとレクリエーションが行われ、4月6日から、授業が始まります。慌ただしいと思うかもしれませんが、しっかり慣れて下さい」
先生の話に、何人かの親御さんからどよめきの声が上がった。今日と明日の二日間しか、ガイダンスやレクリエーションがないということだ。結構忙しい。
しかし異能開発学校である以上、一日も早く授業に入って異能訓練をしたいのだろう。それがこの先、生徒である
どよめきが落ち着くのを待つことなく、水城先生は話を続ける。
「もちろん、一般教養的な学問の教科もありますし、それらについては
続いて話された先生の言葉に、またもやどよめきが起こった。高校卒業時点で特Bランクでも十分に凄まじいのに、準Aランクなんて高校生で持っていていい資格ではない。この学校がどれだけすごい学校か、というのを思い知らされてしまう。
実際あたしの隣で、ママがあんぐりと口を開けていた。まさかこんなにハイレベルな学校にあたしが入学することになるとは、と言いたげな表情だ。
「
そして
それから二学期、三学期の簡単なカリキュラムを説明して、水城先生は頭を下げる。
「それでは、皆で頑張っていきましょう。以上です」
そう言って壇上から降りていく水城先生に拍手が送られた。それを確認した司会の先生が、スクリーンを戻してからマイクを握る。
「水城先生、ありがとうございます。続きまして、新入生代表の挨拶に移ります……」
司会の先生が話すと、前の方の席に座った一人の生徒が壇上に上がった。
壇上で挨拶する生徒の声に聞き入りながら、あたしはこれからの学校生活に、期待がどんどん膨らんでいくのを感じていた。
きっと、楽しい学校生活が待っているに違いない。そう信じていた。
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