最後の一冊

「どれにしようかな」

 カートを押しながら僕は一人小さな声で呟いた。


 僕は今、最後の一冊に悩んでいる。


  三週間に一度本を借りるために訪れている市立図書館は、一人十五冊まで貸し出しできるという規定がある。僕は毎回、満冊借りるようにしている。十五冊キッチリ借りないと何だか勿体ない気がするからだ。


「この本は、前に読んだけど面白くなかったしな」


 本を本棚から取って選別にかけ続けているが、全く最後の一冊が決まらない。同じ本棚を短時間で十回以上見ている気がする。(いや、確実に見ている。)


 僕はため息をついた。時計は僕が図書館に入ってから一時間半経過した時刻を指している。あと三十分以内に出ないと、駐輪代百五十円を払わない。


「仕方ない。今日は十四冊だけにしておこう」

 貸し出しカウンターへ向かおうとした時だった。


 突然、僕の目がある一冊の本に集中した。衝撃的なタイトルだったからだ。


 手に取って、書き出しを確認する。うん、とても良い書き出しだ。


 カートのかごに本を入れた。十五冊揃ったので、僕はスッキリした気持ちでカウンターに向かうことができた。     

           

 了

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