6話 お兄ちゃんのイイところ

「お兄ちゃんって、特別イイところ無いよね」

「就寝の挨拶と見せかけて、兄のナイーヴな心にナイフ突き立ててくのは誰だ」

「それは私。お兄ちゃんの妹、契」

「ちーさん、おやすみなさい」

「まだ話は終わってない。逃がしはしない」

「人に話を聞いてもらいたいなら、手に持つ包丁を置くことから始めようか?」

「・・・置いて来る」


「置いて来た」

「速い。それでちーさん、兄に話したいことがあるのかな?」

「ある」

「・・・ちーさん?」

「お兄ちゃんと話したいこと、いっぱいある!千の夜でも足りないくらい、たくさんたくさん、ある!」

 どういうわけか、ちーさんの眼は涙でいっぱいだ。こんなちーさんは初めてだ。

「おいで」

 華奢なちーさんの身体を優しく抱きしめる。風呂上がりのちーさんはシャンプーの良い香りがする。

「あの女のこと、好き?」

「ツナちゃん?好きだよ」

「私とどっちの方が好き?『どっちも』は無し」

「両方好きだよ」

「両方も無し」

「both of them」

「ぼーすおぶぜむも無し」

「どうしたんだい、ちーさん。今日のちーさん少しヘン」

「ヘンにもなるよ。この身が引き裂けそうなんだもん。裂けてしまわないように、契は、お兄ちゃんの添い寝を所望する」

「却下する」

「無慈悲」

「代わりに強く抱きしめてあげる」

「わっ、わぁぁぁ////」

 腕の中でジタバタするちーさん、可愛い。

「ちーさん。俺の大切な妹」

「・・・お兄ちゃんのイイところ。一つだけある」

「一つだけではない」

「ううん。一つだけ。お兄ちゃんが、契のお兄ちゃんだってこと」

「これからもずっとそうだよ」

「・・・うん」

「嬉しくない?」

「嬉しいよ」

「言い方が嬉しくなさそう」

「お兄ちゃん?」

「何?」

「あの女のこと、好き?」

「好きだよ」

「・・・そっか。それならいいや」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る