もうビジネスカップルじゃいられない

でずな

好きだと伝えたのは酒の勢い!?



「うっ。これだから二日酔いは嫌いなんだよ……ってえ?」


 頭痛と共に、最悪の目覚めを迎えた私の隣に寝ていたのは一緒にビジネス百合カップルとして動画投稿をしている、みちるだった。それも裸で。私自身も裸で。


「んもぉ〜朝からそんな大声出さないでよ〜」


「ちょ、ん? ……ん? 私がおかしいの?」


「ふぁ〜。おかしいって何言ってるの?」


「いや。私達が裸で同じベットの上で目覚めたことなんだけど」


「……ひどい」


「え?」


「も、もしかして昨日私のことが大好きだったっていって襲ったのって嘘だったの!? ……うっうっひどいよぉ〜」


「ごめんごめんごめん。好き好き。私、満のこと大好きで昨日言ったことは全部事実だから泣かないで」


 正直、昨日喋ったことなんて一つも覚えていない。

けど私が満のことが好きなのは事実だから、否定できない。


 やってくれたなぁ。

 酔ってた勢いで告白した私……。


「うっうっぐ。私も嘘じゃないって信じたいよぉ〜」


 チラチラっと私のことを伺う目。

 なるほど。そういうことね。


「満。好きだよ。あの時は酔ってたけど、シラフの私が言うの。好きな気持ち、信じてくれる?」


「もちろん信じるぅ〜!」


 抱きついてきた。肌と肌が当たり、生を温もりを感じる。これが裸の良さというものだろうか。


 この日から、私達はビジネスカップルから正式なカップルになった。

 カップルになって初めてのお風呂、遊園地、酒。どれも、ビジネスという4文字に縛られていた時に感じたなんて感じることはなかった。一緒にいるときのことを上手く言語化できないけど、強いてするのなら甘くて、とろとろで、ピンク色で信じられないほど心が温かった。


 あとから聞いたことだけど、どうやら満も私と同じでずっと好きだったらしい。遅かれ早かれ告白しようと思ってた、とも言っていた。


 カップルになっても尚、投稿する動画の中ではビジネスカップルを装っている。これはビジネスの距離感を求めて見てくれている人がいる、というのを考慮してのこと。

 でもいくら装ったところで、コメント欄でちらほら


『二人の距離感が縮まっている』

『これは……怪しい』


と、察しのいいリスナーが現れ始めている。それもこれも、ボディータッチや空気感が原因なのだろう。こればかりはもうどうしょうもない。なので私は今、スマホを片手に寝転んでいる満に姿勢を正す。


「満。もうビジネスカップルやめない?」


「……それって動画投稿するのやめるってこと?」


「いやビジネスじゃなくて、カップル。百合カップルとして動画投稿しない? っていうこと。いつまでも、ずっと私達のことを見てくれている人達に嘘を付き続けるのは心が痛いし」


「うん。たしかに……そのほうがいいかも! だって、私もようやくリスナー達に可愛いい彼女のことを自慢できるし」


「私の何を話すつもり?」


「むふふ〜。そういうのは良いリアクションがとれるから言わないほうがいいんだよぉ〜?」


「っ。まぁ私が編集するんだし? それが動画になるかは私次第だよね?」


「そ、それは反則ぅー!」


 【告白】実はカップルでした


 この動画は、ビジネスから本物のカップルになったという衝撃と、私達が同性ということもあってか、普段の倍再生され、様々な人の目に止まった。

 ちゃんとすべてを話した動画。そのコメント欄は以外にも応援するものばかりだった。


『やっぱりそうだった! カップルだって公言した二人のより良い絡みが見れると期待してます!』

『えぇ〜!?!? ビックリしました。けどそれと同じくらい同じ女性として尊敬します!』

『まじかよ。もっともっと俺に百合を!!!!』


 コメント総数は2000を超え、チャンネル登録者数もトントン拍子に伸び、またたく間に30万人にまで到達するなんて動画投稿をした時は想像もつかなかった。


「よかった。変に炎上しなくて……」


「うん、本当によかった。……一応言っておくけど、いくら炎上したところで私が思う満への愛は変わらないからね」


「もちろん私も変わらない。いや変わるはずがない! 」


「変わらない、か。それなら一層満と結婚できたらいいのに……」


「け、結婚!?」


「そう結婚。もしかしてしたくない?」


「もちろん私もしたいにきまってるでしょ〜!!」


 幸せ。この2文字が新しい私達のことを表す文字になったのだと、鏡に映る自分のことを見て確信した。心の温かみの正体だということも。


 それから色々あった。色々あり、私達は動画投稿者をやめた。正確に言うと動画投稿をしてお金を稼ぐという目的を捨てた。動画投稿をするのがお金目的になり、二人の関係が崩れていってしまうんじゃないかと危惧してのこと。もちろんそれが理由で投稿する頻度が下がっていき、それぞれ余った時間でを見つけした。

 

「ちょっと満。そんなところでぼーっとしてたらおいていくよ? 今日はただでさえ遅れてるのに、これ以上は流石の優しい両親でも怒っちゃうかもよ……?」


「も、もう! ただでさえ緊張してるのにそんなこと言わないでよ!」


 もちろん心を誓いあったパートナーと一緒に。


 

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もうビジネスカップルじゃいられない でずな @Dezuna

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