第十一話 森の民との別れ


「申し訳ございませんでした」


 政宗が深々と頭を下げる姿に、先程まで怒りをあらわにしていたリコも黙り込んでしまう。


「政宗、おまえは森の民を守ろうとした。そうだろ」


 政宗にそう言ったシュウの顔からは、いつの間にか赤みは引いていて、真面目な表情をしていた。


「そうだ。私は使命を全うしたまでだ」


 政宗はシュウの目を真っ直ぐに見る。


 この時、一瞬だが二人の間に沈黙が生まれた。


 そして、幹部連中が集まり話している中、宴に来ていた森の民たちは徐々に帰り始めていた。


「おい。お前らも外に出ていてくれないか」


 シュウがゲリラ野営の部下たちに言う。


「分かりました。あ、シュウさん。あんまり飲み過ぎないで下さいね。戻ったらまだ仕事あるんですからね」


 一人の部下が言った。


「分かってるよ。なるべく早く済ます」


 シュウはそう言って、自分の頬を両手で叩いた。

「よし。和光、話の続きだ。マイクとおまえ、ダンと言ったか。おまえらも少し外してくれ」


 シュウは、二人に向かってそう言うと、和光と話し始めた。


「いくぞ、ダン」


 マイクはダンに言う。


「いいのかよ、和光と政宗だぞ」


 ダンはマイクの耳元で言った。


「いいから来い」


 マイクはダンの手を引くと、そそくさと家を後にする。


 和光の家から出ると、強烈な太陽の光が二人に降り注いだ。久しぶりに太陽を拝んだ二人は、自然と両手を広げ日光浴を始めた。辺りを見渡すと、マーフ王国と似た建物が沢山見受けられる。ただ、その建築物はとても巧妙な造りになっていて、まるで一本一本の大木の中をくり抜いているような。


「マイク、本当によかったのか」


 ダンは伸びをしながら言う。


「大丈夫だ。リコもいるし、シュウはダンが思っている以上に強い」


 マイクも伸びをし、あくびをしながら言った。


「これからどうする。そろそろ西の村に行かないと」


 ダンは言う。


「そうだな。とんだ足止めを食ってしまった。ダン、俺らの目的覚えているか」


 マイクはダンに聞いた。


「当たり前だろ。マーフの救出だ」


「ほら、解放リスト確認しとけ」


 そう言ってマイクは、ポケットにしまってあった解放リストをダンに渡す。



『名前 フデ』

『性別 男』

『年齢 20代後半』

『芸術性 油絵』

『所在地 マーフ王国西の村 麻の民泊』

 

「ありがとう。ここから西の村まではどのくらいだろう」


 ダンは言う。


「どのくらいだろうな。目隠しされてここまで来たから、なにも分からない」


 マイクは腕を組んで考えていると、突然後ろから声が聞こえた。


「十キロだ。十キロほどで着くだろう」


 マイクとダンが後ろを振り向くと、そこにはやけに大きく見える和光がいた。


 どうやらシュウとの話は終わったようだ。


「お待たせ。なんとか話がまとまったぞ」


 シュウが笑顔で戻ってきた。


「シュウおかえり。十キロか。歩いて行くとなると、結構かかりそうだな」


 マイクは頭を掻く。


「和光が馬を貸してくれるそうだ。針葉樹の森とは違って、西の村までは馬を引ける。そこまで大変じゃないはずだ」


 シュウは言う。


「それは助かる。和光、感謝するよ」


 マイクは和光に頭を下げた。


「二人分の馬が西門に繋いである。おまえの思想が今後どういった運命を辿るのか見てみたくなった。これからは共にマーフ王国と戦おう」


 和光はマイクの目を見る。


「頼もしい仲間が出来て嬉しいよ。昨日も言ったが俺の思想はボスと同じだ」


 マイクは怪訝な顔をして和光に言った。


「まあ、いずれ分かる。そしておまえもだ、ダン。おまえの思想もな」


 和光はダンを指さした。


「俺の思想なんてない。俺はただ、俺は。痛っ」


 ダンは頭の痛みを訴え、その場にしゃがみこんでしまった。


「大丈夫か。ダン、どうした」


 マイクはしゃがみ込むダンの背中を擦る。


「だ、大丈夫だ。ちょっとめまいがしただけ」


 ダンは頭に手をあてながら、ゆっくりと立ちあがった。

 

「一度野営で休んで行くか」


 シュウはダンに言う。


「いや、大丈夫。時間がないんだ。このまま進む」


 ダンは、強い意志を見せた。


 なにがダンをこうさせるのかは分からない、しかしダンの中でなにかが変化しているのは、間違いなかった。


「分かった。そうだマイク、ここで起きたことはボスに伝えてある。遅れが発生しているのも、ボスは容認済みだ。今からまた伝達に行かせるが、伝えておくことはあるか」


 シュウが言う。


「そうだな。時間がかかって申し訳ないとだけ伝えてくれれば良い」


 マイクは言った。


「分かった。気を付けろよ相棒」


 シュウは手を前に出す。


「シュウ、また会おう。リコもまたな」


 マイクも手を前に出し、二人は固く手を繋いだ。


「うん。ダン、マイクをよろしくな」


 リコは言う。


「わかったよ。さあ、マイク行こう」


 ダンは足早に歩き始めた。


 そんなダンにつられるように、マイクも西の村の方角へと進んで行く。西門に近付くと馬の嘶きが聞こえた。


「あの馬だ。ダン、馬には乗ったこのあるか」


 マイクが聞く。


「馬に乗ったことなんてないよ。マーフ王国から出たことすらないんだから」


 ダンは馬に乗ることに怖気づいていた。


「さっきまでの威勢はどうした。昨日は和光にあんなに歯向かってたじゃないか」


 マイクは馬鹿にするようにダンに言う。


「正直あまり覚えてないんだ。僕はどうしちゃったんだろう」


 ダンが言う。


「僕っておまえ。初めて外に出たから緊張したんだろう。西の村に着いてからが本番だぞ。気を引き締めて行こう」


 マイクはダンの背中を押す。


「ありがとう」


 そう言うとダンは馬にまたがる。


「お、結構上手いじゃないか。初めての人はまたがることすら出来ないのに。さあ、行こう」


 慣れた調子で馬にまたがるマイク。


 マイクは馬の腹を軽く蹴ると、ゆっくりと西へと進み始めた。それを真似たダンも西の村、 ウエストランドに向かうのだった。


————。


 二人が見えなくなった頃、誰かが和光たちの方へと走ってきた。


「はあ、はあ、おい、和光。あいつら行っちまったか」


 息を切らしながら走ってきたのは、将吾だ。

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