第19話 メイちゃんとドキドキお泊まり♪
海浜公園を出て大きな橋を渡り、まず向かったのはファストファッションの衣料品店。さすがに泊まるための服が何もないということで、メイが適当に俺の部屋着を買ってきてくれることになったわけだ。
店から出てきたメイが袋を手渡してくれる。
「ほい。全部Lサイズでよかったよね?」
「ああ、サンキュ。てか……スマン」
「なんで謝るの?」
「いやぁ……」
それなりに乾いてきていたとはいえ、ずぶ濡れになったスーツ状態で店に入るのはためらわれたからこうなったわけだが……まさかJKに自分の下着まで買ってきてもらうことになるとは思わんかった。いやまぁ、メイが気にしてなけりゃいいんだけどさ。
するとメイは口元に手を当ててニンマリ笑う。
「んふっ。JKにパンツ買ってこさせるとかちょっとヘンタイだよねおにーさん♪」
「訊かずともわかってんじゃん! てか人の心を読むな!」
「アハハ、おにーさんわかりやすいからさー! てか気にしないでいいってそんなの。まーさすがのあたしもちょっと恥ずかしかったけどねー? あっ、ひょっとしてそういうプレイ? あたしが恥ずかしがるとこ眺めて興奮するとか、おにーさんやば~!」
「勝手に解釈してドン引きすな! ああもう、とにかく着替えてくる!」
「ほーい」
というわけで近くのトイレに向かい、メイが買ってきてくれた服に着替えた俺は、今度はメイと共にスーパーマーケットへ。歯ブラシとか一晩で必要そうなものをちょこちょこ選び、いやそれはいらねぇだろと変に意識してしまったとある商品から目をそらし、カツ丼の食材を買ったりなどしてスーパーを出る。汚れ物の服もあったから、結構な荷物になってしまった。
それからメイと十分ほど歩いたところで、ようやく目的地に辿り着く。
「ここだよー」
メイが平然と紹介したのは、今年完成したばかりの新築タワーマンション。いわゆる億ションと呼ばれるレベルの超高級マンションに間違いない。てか大家さんがそう言ってたし、うちのアパートからも建設するの見えてたからなここ。下から見るとたっか……。
思わず天を仰ぐように顔をあげてしまっていた俺にメイが言う。
「ほら、んじゃメイちゃんち行くよー?」
「お、おう。ちなみにメイんち何階?」
「
「マジかよ……高すぎんだろ……」
つーかここ俺みたいなのが入っていいのか? 今日の面接先のビルより敷居高ぇぞ。しかもシャツと短パンとかいう超ラフな格好だし。
「んもー、そんな緊張しなくてヘーキだって。ラブホ行くわけじゃないんだよー?」
目を細めてクスクスとからかうように笑ってくるメイ。ぐぬぬ大人をなめやがって。
「き、緊張なんてしてないっての。てかJKがそういうこと言うなって!」
「アハハ、いつものよわよわなおにーさんだし家入れてもだいじょぶそ。んじゃ行こっか」
「誰がよわよわお兄さんじゃ!」
そのままメイの後に続き、厳重なセキュリティのロビーを突破して真新しいエレベーターに乗る。ぐんぐんと急上昇していく感覚は他でなかなか味わえなさそうなもので、到着までそれなりに時間が掛かるところも珍しい経験だった。
そしてついにメイの家に到着したわけだが……、
「ただいまー。はい、おにーさんも入って入って」
「は、はい。お邪魔します」
思わず敬語になる。メイはぷっと小さく笑った。
そして通されたのはリビング。かなりの広さがあって、天井も高めだしシーリングファンまであるし、解放感はなかなかのものだった。新築ならではの匂いがまだ残っているのもあるし、何より部屋がめちゃくちゃ綺麗だったからモデルルームかと思ったくらいだ。
「テキトーに座っててー」
「うわ、景色すげぇな……」
「アハハ、すぐ慣れちゃうけどねー」
でっかい窓から覗く東京の街並みは煌びやかで、暗い海の向こうまで光が見える。そのどこか現実味のない光景に呆然としてしまうものだった。
俺はキッチンで肉をしまっていたメイに言う。
「なぁメイ。ご両親は? 泊めてもらう以上さすがに挨拶くらいはさせてほしいんだが」
「んー、今日も帰ってこないんじゃないかなー」
「は?」
「パパは週1、ママは週3くらいしか帰ってこないの。今日はどっちもいない日ー」
「……マジかよ」
思わず息を呑む俺。
つまり今夜、俺はメイと二人きり……なのか?
そう思ったとき、さっきスーパーでチラッと見かけたアレが脳裏によぎる。いやいやいやいやあんな薄いもんが必要になるわけないだろ何を考えてんだ俺は!
「――スケベ♪」
「うわっ!」
いつの間にか間近で俺を見つめていたメイにドキッとして身をそらす。
メイはニマニマと微笑みながら言う。
「二人っきりってわかってめちゃくちゃ緊張してんじゃーん。メイちゃんとドキドキお泊まりでナニ出来るかって想像してた? うわーおにーさんのエッチー♪」
「し、し、してないっての! 誤解だ誤解! つ、つーかメイのことだからからかってるだけで、ホントは二人きりじゃないんだろ?」
「ふぇ? どゆこと?」
「いや、だってお祖母さんがいるだろ。両親が仕事でいないってんなら、せめてメイのお祖母さんには挨拶くらいさせてくれよ。普段孫娘のウマイ料理食べさせてもらってるんだから、そのお礼も言わないとな」
そう言うと、メイは少しだけ呆然としたが――すぐに明るく笑った。
「んっ、いいよ! じゃあこっち来てー。おばあちゃんのとこ案内したげる」
「お、おう。こんな格好で大丈夫か?」
「気にしないからヘーキヘーキ!」
こうしてメイに案内されるままリビングを出る。広いマンションだから部屋数もそれなりに多いようで、トイレも二つあるとか。いやマジですげぇな。俺には一生縁のなさそうなマンションだ。
「ここだよおにーさん。おばあちゃん入るねー」
そうしてメイは、スーッと引き戸を開いた。
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