第17話 スーパーラッキー
「……! メイっ!!」
思わず彼女に抱きつく。メイは「うわっぷ!」と声を上げた。
そのままメイの感触を確かめるようにサラサラの金髪を撫で、華奢な背中を擦り、少し乱暴に抱きしめたままくるくると回る。
「んだよいるじゃんか! ここにいるじゃんか! メイいるじゃん!」
「だ、だからいるって言ったじゃぁん! 最初から止めてたんだけどぉ? てか落ち着いてよ~!」
「聞こえなかったんだよ落ち着けるか! そもそもメイから返信こねぇしひょっとして家にって、ああもう安心したらどっと疲れが……はぁぁ~心配させんなって!」
回転を止めて大きく息を吐いた。メイはちょっぴり照れたような顔で言う。
「ゴ、ゴメンね。逃げるときスマホ中に忘れてきちゃったから連絡出来なかったの。てか、お、おにーさん、そこまで心配して……って、さ、さすがにちょっと、痛いんですケド。んもー! それにあたしまでびしょ濡れじゃーん!」
「え? あ、悪ぃ!」
ようやく冷静になってメイからパッと離れる俺。消防隊員の人たちや大家さん、止めてくれた周りの人たちにもペコペコと頭を下げる。みんなホッとしたような顔をしてくれたから嬉しかったが、無性に恥ずかしくなってきた。
消火作業が続き火の勢いが弱まってきた中、隣のメイがハンカチで俺の濡れた頭や顔を拭きながら言う。
「だいじょぶだよおにーさんっ。アパートの人たちがそれぞれ声掛け合ってさ、あたしもすぐ教えてもらえたからパーッて逃げられて! みんな無事避難してるよっ。逃げる途中に階段で転んじゃったお隣さんが念のため救急車に運ばれたけど、それも軽傷みたい。あと消火器使ってくれた人がいてさ、それがよかったんだって!」
「そうなのか。ならよかったぁ……」
「ん! でも大変なことになっちゃったよねぇ。せっかくおにーさんちキレイに片付けたばっかなのになぁ。それにエアコンも来る予定だったのに~!」
「いやもうそんなんどうでもいいって。メイが無事ならそれでいいよ」
「えっ……」
近くではまだ炎が上がっているせいか、メイの表情がなんだかいつもより赤らんで見えた。わずかに頬のあたりが煤けている。
メイはなんだかもじもじしながら口を開く。
「……あ、あのさ。おにーさん」
「ん?」
「さっきその、す、すごいこと言ってたよね? も、もしかして、おにーさんってさ……」
「すごいことって何だよ?」
「え? 覚えてないの?」
「必死すぎてなんも覚えてねぇ。え? 俺、な、なんか変なこと言ってたか?」
するとメイは目をパチクリとさせて、それからぷっと吹き出すように笑い出した。
「アハハハ! んーんっ、別に変なことなんて言ってないよ。――あっ」
そこでメイは道路の方へ駆け出し、俺が放り捨てた鞄とケーキの箱を拾ってきた。
「これおにーさんのでしょ? もーいくら慌ててたからって投げ捨てちゃダメでしょ。てかこっちの箱なに? なんか隙間から冷たいのもれてるけど」
「あー、それ実はメイへのお土産だったんだけどな。アイスケーキ。やっぱぐちゃぐちゃになっちまったかな? いや中身は大丈夫そうか。冷凍で助かったな」
「えっお土産? てかこれ……『パフィ・ププラン』のケーキじゃん! うっわマジで!? ここめっちゃ人気店ですぐ売り切れちゃって全然買えないし本店も駅ナカも行列すごいのによく買えたね!」
「そうなのか? なんか普通に10分くらいで買えたけど」
「おにーさんめっちゃラッキーだよ! って、目の前でお家が大変なことになっちゃったのにラッキーもないよねぇ、ゴメンナサイ」
ちょっぴり申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるメイ。
そのとき、遠くで大きな花火がバーンと音を立てて光った。
ハラハラと消火作業を見守っていた人たちも、一様に花火の方を見上げている。
なんかとんでもないことになっていたはずなのに、このとき打ち上がった花火はみんなが見惚れるくらいに綺麗で、だから俺は笑うことが出来た。
「いや、スーパーラッキーだろ」
「え?」
メイが不思議そうな顔でキョトンとこちらを見る。
みんなが――メイが無事なら、それは何より幸運だ。
いや大家さんには申し訳ないけどな。てか俺今日からどうすりゃいいんだ!?
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