第12話 お部屋も心も体もスッキリ♪


 思わず動揺して聞き返す俺。

 メイは頭巾をとって髪を軽く払うと、手をうちわのようにして顔にパタパタ風を送りながら話を続けた。


「スーパーで買い物してきたときね、ひょっとしておにーさんの彼女さんですかって聞かれたからそーでーすって。おにーさん真面目で浮いた話とかまったくないから安心したよ~って言ってたよ。同棲OKルールにするからこれからもおにーさんのことよろしくね~だって。優しいおばちゃんだったじゃーん」

「いつの間に大家さんとよろしくやってんの!? つーか俺の知らないところでアパートのルール変えてんじゃねぇか! そもそも同棲してねぇから別にルールも破ってねぇし! そもそも彼女でもねぇし! そーでーすじゃねぇよ!」

「アハハハ! まぁこれはこれでよかったじゃん? 他の部屋の人たちも彼女呼んだり友達とルームシェア出来そうだから助かったよメイちゃーんってお礼言われちゃったし」

「ちょっ!? メイ、他の部屋の人とも関わりあんのか!? いつの間にだよ!?」

「まー挨拶くらいだけどね? それよりお腹空いたしごはんにしよっか! 今日はねー、ちょっと簡単めなパスタにしようかなって。ミートソースと明太子、どっちがいい?」

「どっちも喰いてぇ!」

「アハハ! じゃあ二つ作って分けよーよっ。あーでもその前に体もキレイにしちゃいたいよね~。やっぱお風呂入りたいな~お風呂! ねーおにーさん温泉いこ温泉~! ほら近くに有名なスパあるじゃーん! 汗くさいのイーヤー!」


 と、ねだるように両手で俺の腕を引っ張るメイ。

 なんかいろんな情報がどっと入ってきて混乱していたがそれらはひとまず頭の片隅に置いといて、確かに風呂には入りたいところだ。普段はシャワーばっかだけど、スーパー銭湯みたいな施設が近くにあるんだよな。温泉テーマパークみたいになってるヤツ。メイが言ってるのはそこのことだろう。


「あ、そういやあそこの割引券、前に大家さんから貰ってたっけ。わかったわかった。んじゃメシの前にひとっ風呂いくか」

「んやった~! 大家さんめっちゃイイ人じゃん今度お礼いっとこー♪ じゃあいこおにーさん! あそこめっちゃ面白いお風呂いっぱいあって楽しーよ!」

「へいへい。つーかメイ、ひょっとして最初からいくつもりだったのか?」

「あはーバレた? だって汗かくのなんてわかってたからねー。あっそだ!」


 そこでいきなりパンッと手を合わせるメイ。その音にちょっと驚きながら尋ねる。


「今度はなんだよ」

「さっきのご褒美の話! お風呂からの帰りにかき氷食べてこーよっ! ホントは今度友達と行こうと思ってリサーチ済みだったんだけどさ、おにーさんがそんなにおごりたいなら仕方ないしー♪」

「夏休み堪能してんなぁお嬢様。んじゃおごらせてもらいに行くかー」

「うんっ!」


 それからメイがジャージから私服に着替え、二人とも準備を済ませたとき、メイがスッキリとした部屋を見渡して言う。


「ねねっおにーさん、スッキリした?」

「ん? ああ、ずいぶん片付いたし。メイのおかげだな」

「えっへへ。面接上手くいきそう?」

「そうだな。いけるかもな」

「そっかそっか! じゃあ行こおにーさんっ! お部屋もスッキリ心もスッキリ! さらにお風呂で体もスッキリー!」

「おう」

「あ、言っとくけど混浴じゃないからね? エロいイベントないけどだいじょぶ?」

「どういう心配!? 当たり前だろそんなもん!」

「まーカップル向けの貸し切り露天風呂とかもあるみたいだけどねー。水着は持ってきてないし今回はなしで! おにーさん残念でした!」

「残念でもねぇし! ほら行くぞ」

「ハーイ♪ レッツラゴーゴー♪」


 メイに引っ張られるように部屋を出る。二人で歩く東京の夏の夜は、生温い空気と一緒に潮の香りが漂っていた。


 ご機嫌にスキップするメイがつぶやく。


「んっふふ~♪ かき氷何味にしよっかな~♪」

「なぁ。てかダッツ3つと同等以上ってかき氷の価値高くねぇか?」

「それな! 最近のかき氷って盛りまくり凝りまくりでホント美味しいし映えるんだけど結構するよね~? やっぱダッツ3つのがお得かな!? 悩むんだけどー!」

「いやもうどっちも買ってやるよ。気にせず喰え女子高生!」

「おにーさんふとっぱらじゃーん! ちょー嬉しいんだけど! あ、かき氷は別の味頼んでシェアしよーね!」

「いやっ、そ、そんなのカップルみたいで恥ずかしくないか?」

「べっつにー? あたし豪華フルーツ山盛りのスペシャルデラックスにしようかな~3000円のヤツ!」

「たっか! メイちょっと待て! それはやめてください!」

「えっへへどうしよっかな~♪」


 さらなるご機嫌スキップで前を進むメイ。ったく、嬉しそうな顔しやがって。


「あ、そういや今度新しいエアコン届くから快適になるぞ」

「えっマジ!?」

「マジマジ。料理中とか大変だったろ。悪かったな。これで宿題も捗るんじゃないか」

「……それってあたしのため? お、お金とかヘーキなの?」

「JKがそんな心配しなくていいって。それに俺も涼しい方がいいに決まってるしな。たんに夏の必需品買うってだけの話だろ。ほ、ほら行くぞ」

「おにーさん……えへへ! ほんとにふとっぱらじゃーん! って汗くさ~っ!」

「だーもう! 急にくっつくからだろーが!」


 ていうか、メイもだいぶ汗かいたはずなのに普通にイイ匂いがするのはなんでなんだ。JKだからか。ギャルだからなのか。やっぱりその辺も気を遣ってんだろうな。なんつーか、最近は細かいところでメイの〝女の子らしさ〟みたいなものを実感することがあってドキッとする。

 とまぁこうしてスーパー銭湯に着くまでの道のりは話が止むことはなく、さらにご機嫌になったメイの模様替えプランとやらを詳細に聞くことになってどんどこ話が進んでしまったわけであったが……なぁこれ同棲カップルのすることじゃないか?

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