第13話 エッチな自撮りをミスるJK

 メイと部屋の片付けを済ませて迎えた日曜日。

 時刻は深夜0時前。もうじき7月が終わるといったタイミングだ。


 そして明日8月1日の月曜日はいよいよ面接の当日。そんな日を数分後に控えた俺は一人、綺麗に片付いた部屋の中で面接の練習をしていた。


「……ふー。まぁこんなもんだろ」


 指南書などによくある質問への想定や対策などは練ってある。よほど突飛な質問でもこない限りは落ち着いて答えられるだろうし、そもそも考えすぎてもよくない部分はあるだろう。

 というのも高校生の頃、「面接官が知りたいのは事前に用意された答えではなく、その者の本質だ」って親父が言ってたしな。ありがちな答えをするなってことなんだろうけど、その辺難しいよなぁ。


 ――ここで受かれば、最終面接まで行けるのか……。


 そう考えてしまうと、まだ前日だというのに途端に緊張感が出てくる。そのせいであまり食欲もなく、なにより今日はメイが来ていなかったこともあって、夕食は適当にコンビニのおにぎりとパンで済ませてしまったがよくなかったかもしれない。

 

「そういやメイのヤツ、この前はお目当てのかき氷が売り切れでめちゃくちゃがっかりしてたからなぁ。今度どっかで埋め合わせしてやらないとな」


 ふと思い出して笑うのは、俺の部屋を片付けた後で一緒にスーパー銭湯へ行った帰り。

 メイに連れられて向かったオシャレなガラス張りのスイーツ店は遅い時間でも女性やカップルに大人気であり、材料がなくなってしまったとのことで、メイが食べたかった商品がことごとく品切れだったのだ。

 他のにするかと尋ねたが、メイは「ゼッタイあれじゃなきゃヤダ!」と涙目の決意をしたのでいずれ再訪することにしたわけだ。ちなみにその帰りのスーパーでダッツを3つ選ぶときにはすっかりご機嫌になっていたので俺としては助かった。

 そうそう、それにあの後でメイが作ってくれたパスタはどっちも美味かったな。なんでアイツが作ると普段より激ウマになるのか不思議なもんだ。


「あー……メイのごはんが食べたいな……」


 急に食欲が湧いてきた腹を押さえながらそんなことをつぶやいてしまったとき、俺のスマホがブブブと震える。


「うおっ! って、こんな時間にメイからか? なんの用――っちょおっ!?」


 スマホでメッセージアプリを開いた瞬間、思わず凝視してしまう俺。



 無言でいきなり送られてきたのは――水着姿のメイの自撮り写真だった!



 左手を伸ばして上の方から撮っているのだろう。自室のベッドの上らしき場所でカメラ目線でウィンクするメイの白い水着はなぜか肩紐が左右どちらもほどけており、右腕で水着や胸全体を持ち上げるように支えながら絶妙に隠している。

 ちょっと過激なグラビアポーズみたいな姿に思わず息を呑む俺。

 わかってはいたがやはり相当に大きかったメイの胸の谷間は白く光を反射し、今にもあれこれ見えてしまいそうな危ういバランスゆえに腕や水着がもう少しズレてくれていたら――とついよろしくない想像をしてしまったとき。


「うおわっ!?」


 鳴り響く着信音。今度は写真ではなく電話だった。

 ドキンッと跳ねた心臓に手を当て、俺は軽く息を整えてから応答する。


『あ、おにーさん? ごめんねー今日行けなくてさ! ちゃんとごはん食べた?』

「お、おう。コンビニのおにぎりとパンを少々』

『えーそれだけ!? んもーあたしがいなきゃそんなのばっかじゃん! しょーがないなー。明日面接終わりに作りいったげるからちゃんと食べなよー』

「悪い。つーかこんな時間に電話なんて珍しいな」

『えへへ。ちょっとねー』

『今度友達とプール行く予定でさっ、去年の水着を引っ張り出してみたんだけどやっぱ小さくってー、ほらメイちゃんまだまだ成長期だし? ここは新しいの買うべきかなーって! で、参考がてらおにーさんはどういう水着好きかなーって思って。これはどうどう? ってか写真見た?』

「あ、ああ。見たけど俺の意見なんて参考にならんだろ。好きなの着ろ好きなの! てか、いきなりあんなの送ってくんなよ!」

『アハハハ! やっぱおにーさんには刺激が強かったかな~? これくらいの自撮り、今時の子ならみんな彼氏に送ってるよ~?』


 いつもの小悪魔モードでからかうような声に、電波の向こうでメイがどんな顔をしているのか容易に想像が出来て「ぐぬぬ……!」とうなる俺。そもそもメイそのものが気になって水着のデザインとかまったく目に入ってなかった。つか今時の子マジかよ! いいとこのお嬢様が何やってんだ! 風紀はどうなってんだよ風紀は!


 するとメイはひとしきり笑ったあとで言った。


『ねっ、メイちゃんのキュートな水着姿みたら元気出たでしょ?』

「え? ……お前、もしかしてそのためにわざわざ?」


 尋ねると、スマホの向こうでメイが「えへへ」とちょっと照れくさそうに笑った。


『おにーさん真面目だからさー、緊張してるかなって思って』

「だからってお前なぁ……けどま、わざわざありがとな」

『えへへっ。それじゃ特別に、もっと元気になれる魔法かけちゃおっかなー?』

「ん? なんだよそれ」

『あのね、もしも面接受かったらさ』


 と、そこでメイの声がひそひそと小さくなり――


『ご褒美に……もっとエッチなの送ってあげる♪』


 ささやくような甘いつぶやきに、ドッキンと心臓が跳ねる俺。

 すると電話の向こうでメイがケラケラ笑い出した。

 

『なんちゃってー♪ ウソに決まってんじゃーん! あーおにーさんゼッタイ想像したでしょ! あれよりエッチなのってもう裸じゃん裸! JK相手に何期待してんのスケベー!』

「は、はっ、はあぁぁぁ!? お、お前なぁ!」

『アハハハ! はー今日も楽しくおにーさんをからかったことだしもう寝まーす! 夜更かしはお肌に悪いですし!』

『それとさ、おにーさんならだいじょぶだって。自信持ってこ!』

『じゃ、明日がんばってね!』

「あ、お、おう。じゃあな」


 そうしてメイとの慌ただしい通話は終わり、スマホの画面に目を戻す。メイから最後におやすみスタンプが送られてきたそのとき、ちょうど時刻は0時になった。

 結局のところ、メイが言いたかったのは最後のあの言葉だったんだろう。ったく、高校生が大人に気を遣うなっての。


「ま、確かに緊張は解けたしありがたいわ――ん?」


 そこでもう一度メイの自撮り水着写真をマジマジと見つめる俺。


 さっきはいきなり電話が来て気付かなかったが……。


 ずり落ちないように胸と水着を支えてる腕の隙間。それに親指のところ。


 白いビキニの影からわずかに見えてるこの薄桃色のものは――ま、まさか!?


「って消えたぁっ!?」


 そこでいきなり画面からメイの写真がパッと消えてしまう。メッセージに送信取消のログが残っていた。

 すると再びメイからの着信。驚きすぎて手元から落としたスマホを拾い、応答する。


『おにーさんっ! さ、さっきの写真消したからね! 保存とかしてないよね!? ねっ!?』

「は、はぁっ!? し、してないけど!?」

『あっ、そ、それならいいの! えっと、ととっ、とにかくおにーさんにはちょっと過激すぎて眠れなくなっちゃうかもって思って! だ、だから消しました! 気にしないでいいから! それじゃねおやすみ-!!』


 それだけ言って通話は切れる。

 メイのヤツ、珍しくめちゃくちゃ焦ってたな……。


「それにわざわざ保存の確認してきたってことは……さっきのって……やっぱ……!?」


 俺はもう二度と見られない記憶の中だけに存在する先ほどの自撮り写真を思い出し、メッセージログに残された送信取消の文字列を見つめて。


「…………保存しときゃよかったかぁぁぁ……!」


 思わず固く手を握る。

 正直そのときは面接のことなどさっぱり忘れていたのだった。

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