第11話 メイちゃんの模様替え計画
そんでもって週末の金曜日。
ミンミンとセミの元気な鳴き声が聞こえる快晴の朝から、俺とメイは本当に二人で我が家の片付けを始めていた。
「ホコリは基本高いところからねー。重たいモノの移動はおにーさんに任せた!」
「おう。しっかしメイ、掃除もずいぶん手慣れてるな」
「まーねー。小さい頃からおばあちゃんにがっつり仕込まれてたのもあるし、うちの学校って初等部からこういうとこしっかりしてるからさ。ほらほら、夕方までにちゃちゃっとやるよー!」
「だな」
今日はなんと『聖櫻』ロゴ入りの学院指定ジャージを持ってきたメイはさっそくその戦闘服に身を包み、頭には頭巾、エプロン姿、手にはぞうきんという昭和スタイルで鼻歌交じりにせっせと働いていた。
その手際は見ているだけでも気持ちいいくらいで、重曹やクエン酸、電解水などを使ったナチュラルクリーニングとやらで辺りをピカピカにしていく。これも祖母に教えてもらったものだとか。この女子高生やたら家事スキル高くねぇか? 教育の大事さを実感するな……。
「ハイそこのおにーさん! メイちゃんのおしりばっか見てないで働いてー!」
「見てねぇって! ハイハイやりますよ!」
「てかさーエッチな本もAVも全然ないんだけど? おにーさんめ、やっぱり事前に処分しやがったなー!」
「何探してんだよお前こそちゃんと働けや!」
というわけで休日の片付けに奔走することになる俺たちであった。
こうしてせっせと掃除に励んだ俺たち。昼休憩にはささっとそうめんを食べて、簡単に家具を動かしたりゴミや不要品をまとめたり、メイの丁寧かつ効率のよい掃除テクのおかげで部屋はどんどんと片付いていった。そして夕方頃には本当に部屋がスッキリと整い、俺はずいぶんと驚いたものだった。
メイが腰に手を当てながら仁王立ちして部屋を見回す。
「よっし! とりまこんなもんっしょ。ハイ、今日はお疲れサマでした! あーもう汗だくなんだけど~アイス食べたい!」
「お疲れー。いや、ホントサンキューなメイ。いざ片付けてみると全然違うわ」
「でしょー! 掃除ってホント大事なんだからね? これからは普段からちまちまやること! てかあたしが見張るからキレイにさせるし」
「そりゃ安心だ。つーかここまでしてもらってタダってわけにもいかねぇしな……ダッツでもおごるぞ」
「えーイイじゃん! 1個だけ?」
「お主の素晴らしい働きに感謝して3個まで進呈する」
「マジで!? アソートもいけんじゃん! あ、でもクリスピーも欲しいし一個一個選ぶのも悩むな~!」
こんな大掃除の見返りがたったのアイス3個というのは安すぎだろと思うが、これだけ喜んでくれるならあながち間違ってもないか。なんなら高級ブランドバッグの一つくらいねだってきてもよさそうだが、メイがそういうタイプでないだろうことはなんとなくわかっていた。こいつなら「おにーさんにそんな甲斐性ないっしょ~?」とでもからかってきそうなもんだしな。
そんなメイは、名前入りジャージのファスナーを下げて胸元をパタパタさせながら「あっ!」と声を上げる。
「そういえば近くのかき氷屋さんもいいなって思ってたんだよね~! ねねおにーさんっ、そういうお店に行くのもアリっ? 値段的にはダッツ3個と変わんないし!」
「おーおー好きにしろ。アイスでもかき氷でもおごったるわ」
「やったゼッタイ約束ね! とまーご褒美はひとまず置いといて。それじゃおにーさん、そっちのゴミは今度捨てておいてね。んで不要品はちゃんと自治体のルールで処分すること! おけ?」
「おけおけ」
指でOKマークを作って念を押すメイにこちらもOKマークで答える。メイは「よし!」と安心したように笑った。
「それからさーおにーさんっ、せっかくだし模様替えもしちゃわない?」
「模様替え?」
「うん! このカーテン古いしもっと明るい色にしてさ、どうよくないよくないっ? 気分変わって楽しくなるし、今度一緒にお店見に行こっ! ホントは壁紙も変えたいけどそこは賃貸だからな~」
「なるほどな。まぁ見に行くくらいはいいけど」
ここに越してきてから学校やら仕事やらで部屋のことまで気が回らず、そういうのまったくやってなかったからな。良い機会だし、確かに気分転換にはなりそうだ。
するとメイは「おけ!」と掴んでいたカーテンから手を放し、また部屋の中をあちこち動き始めた。
「あとアロマオイル持ってくるからさ、こっちにディフューザー置いてー、あっ、ついでにあたしの化粧品とか置いといてもいい?」
「は?」
「それから着替えもちょっち置いときたいな。いつも制服だとリラックス出来ないからさぁ。じゃ、クローゼットのこっち側あたしのスペースね。あとおっきい鏡ほしいな~。おにーさんカーテン見に行くとき姿見も買っちゃわない? あと食器もいくつかほしいしー、うんうんよしよし! メイちゃんの模様替え計画見えてきた!」
「いやもう完全にお前の別荘だろここ! 普通に彼女より順応してるぞ! 一応ここルームシェアとか禁止のアパートだから大家さんに知られたら面倒なんだぞ!」
「あっヘーキヘーキ。大家さんならこの前来るとき外で会ったし」
「はっ!?」
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