第3話 崩れた平穏
「みんなおつかれ~」
「え? ナオ? あぁ、今日は俺が遅くなるから先に帰らせた」
「いや確かに仲はいいけどさ~、それでも俺たち付き合ってないから!」
「ん? まぁ、ナオのこと好きだし、そりゃ本当は彼女にしたいよ。でもさ、アイツは俺のこと‟ただの幼馴染”としか思ってねーからなぁ」
「まっ、ゆっくり進んでいけばいいかな~。どうせ俺たちこの先もずっと一緒にいるだろうから」
「バッ……! 別にのろけてなんかねーし! じゃ、また明日な~」
◇
—―キーコキーコキーコ……
「ナオのヤツ、ちゃんと帰ったかな……」
—―ブーッブーッブーッ……
「おっと電話だ。ん? ナオのおばちゃん? こんな時間になんだろ……」
『もしもし、健太だけど。どうしたの?』
『いや、今日はナオとは別々に帰ってる』
『……えっ!? ナオがまだ帰ってない!?』
『おばちゃん、とりあえず落ち着いて! 俺も探すから! じゃ、また後で電話する!』
—―キコキコキコ……
「アイツどこ行った!? くそっ……、やっぱ一緒に帰れば良かった!」
—―キコキコキコ……
「……!!」
――キキィーッ! ガシャン!
「おいっ、ナオ! お前、こんなとこで何やってんだよ! おばちゃん、めっちゃ心配して――」
「……健太? け、健太だぁ! うわぁーん! 良かったー!」
「ナオ! そんなに泣いてどうした!? 一体何があった!?」
「ううっ……、帰り道が……グスッ……わ、分からないの……」
「はっ!? 何言って……。とにかく話は後で聞くから、とりあえず一緒に帰ろ」
—―トゥルルル……
『あっ、おばちゃん? 健太だけど。ナオ見つけたよ。今から連れて帰る』
――ピッ
「ほらっ、手出せ。帰るぞ」
「うん……」
「……」
「……久しぶりに手つないだね……」
「ふんっ、また迷子になったら困るからな……」
「……ありがとう」
――カラカラ……
「あ、あのさ……、片手じゃ自転車押しにくいでしょ? 手、放してもいいよ?」
「いや、これでいい」
「そ、そっか……」
「なぁナオ。お前、俺とかおばちゃんたちに隠してることがあるだろ?」
「ヤダな~、隠し事なんてないよ~!」
「いや、俺に隠し事しても無駄だぞ?」
「……ハハ。やっぱり健太にはバレちゃうか……」
「実は……、実はね、昨日から急に色々なことを思い出せなくなってきたの……。好きな芸人さんの名前、友達の名前、あと、か、帰り道まで……」
「なんだよそれ……。お前、おばちゃんに話して病院に行け」
「健太、お願い。ママたちにはこのこと黙っててくれない?」
「は? なんで……」
「ほんとに疲れてるだけかもしれないし、余計な心配かけたくないの。ね? お願い!」
「……わかった。でも、いよいよの時になったら俺はおばちゃんに言うからな!」
「うん。ありがと……」
◇ ◇
しかし、ナオの物忘れはこの日を境に段々とひどくなっていく。その進行スピードはとても速く、俺たちの平穏な日常は瞬く間に崩れ去っていった。
俺とナオはこれから先もずっと一緒だと信じていたのに……。
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