第2話 迫りくる異変

「ただいま〜! ママ、お腹すいた〜! ご飯なに〜?」


「健太? さっきまで一緒だったけど?」


「えっ!? ま、まさか~! 付き合ってなんかないよ! 誰が健太なんかと……」

(本当は大好きだよ。でも健太は私のこと幼馴染としか思ってないし……)


「もうっ! そんなことはいいから早くご飯食べよっ!」




「あ〜、お腹いっぱい! おっと、お笑い番組やってるんだった! お〜い、テレビのリモコ〜ン?」


――ガサガサ……


「あっ、あった!」


――ピッ



「ハッハッハッ! あー、面白っ!」


「ってあれ? ママ〜、このお笑い芸人の名前なんだっけー?」


「うん、好きな芸人さんだよ。でも、なんかど忘れしちゃったみたい」

(あれ? 昨日まではちゃんと名前言えてたんだけどな……)




◇ ◇ ◇


――ガヤガヤガヤ……


「今日は健太が早く起きてくれたから余裕で学校着いたね! やればできるじゃん!」


「うるせーなー」


「そういえばさ、昨日のお笑い番組観た? めっちゃ面白かったね〜!」



――ナオちゃん、健太くん、おはよ~


「お~っす」


「おはよ〜……」

(えっ? あの子の名前なんだっけ?)


「おいっ、ナオ! 何ぼーっとしてんだ? 後ろ通れねーみたいだぞ?」


「……うん」


「おいっ、聞いてんのか? ほらこっち!」


「……えっ!? あっ、ごめん!」

(ダメだ……。思い出せない……)



◇ 


「――おいっ!」


「おいっ! ナオ!」


「え?」


「お前、次の問題当てられてるぞ!」


「えっ!? あっ、は、はいっ!」


――ガタタッ


「す、すみません。聞いてませんでした……」

(ヤバっ、呼ばれてるの全然気づかなかった。

 ……気づかなかった? いや、自分の名前が分からなかった……)




――キーン、コーン、カーン、コーン……


「おいっ、さっきはどうしたんだよ?」


「あっ、うん……。ちょっと睡魔に襲われてて……」


「ふ〜ん。珍しいこともあるんだな」


「ハハハ……」

(健太には心配かけたくない。うん、きっと疲れてるだけだよ)



「あっ、俺今日練習の後ミーティングがあって遅くなるから、ナオは先に帰ってて」


「…………どこに?」


「『どこに?』って、お前何寝ぼけたこと言ってんだ? 自分の家に帰るに決まってんだろうが!」


「家……。私の家?」

(……私の家ってどこ?)


「……お前、今日どうした? どっか悪いなら、俺部活休んで一緒に帰るぞ?」


「いや、大丈夫だよ!」


「ほんとか?」


「もうっ! 健太は心配性なんだから~! 一人で帰れるに決まってるでしょ!?」

(大丈夫……。歩いてるうちに帰り道思い出すよね……)


「じゃ、また明日~」


「おうっ、気を付けて帰れよ!」



◇ ◇


 この時、私は自分の身に起きている異変に不安を感じたが、たんに疲れているだけだろうと甘く考えていた。

 まさかこの異変が、私と健太を引き裂くことになるなんて……。

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