第7話 失った記憶

――ガターン!


「ナ、ナオ!? どうした!?」


「い、意識がない……」


「で、電話しなきゃ……」



――トゥルルル……


「お願い、早く出て……」


――ピッ


『お、おばちゃん!? ナオが倒れた!』


『今、隣町の海の近くにあるチャペルにいる! お願い、早く来て!』




「ナオ……。頼む、目を覚ましてくれ……。俺たちたった今、愛を誓ったばかりだろ……」




――ピーポーピーポー……


――コツコツ……


「あっ……。おばちゃん、ごめん。面会時間外だけど看護師さんに許可もらって待たせてもらった」


「……ねぇ、何で泣いてるの?」


「……ナオ、無事、……なんだよね?」


「無事なら良かった。でも『会わない方がいい』って、なんで? ナオの意識は戻ったんでしょ?」


(まさか……)

「お願い、ナオに会わせて」



――ガラガラ……


「ナオ! 無事で良かった!」


「ナオ……?」



「……あなた、誰?」


「ハハッ! お前、何寝ぼけたこと言ってんだよ!? 俺だよ! 幼馴染の健太だ!」


「……健太……さん?」


「……俺のこと本当に分からないのか?」


「……ごめんなさい」



「なぁ、頼む。冗談だって言ってくれよ……」

(ごめんナオ。俺やっぱり現実を受け入れられない。だって俺たちこれからだったんだぞ……)



◇ ◇ ◇


「あっ、おばちゃん久しぶり。ナオ、もうすぐ退院でしょ? ナオが家に戻ったら毎日でも会いに行くから!」


「……え? おばちゃん、今なんて言った……?」


「引っ越すって……、一体どこに?」


「はっ!? なんで教えてくれないんだよ!?」


「ねぇおばちゃん、俺たち『将来結婚しよう』って約束してるんだ! それに俺、あの日ナオに誓ったんだ! 『記憶を失くしてもずっと愛し続ける』って!!」


「今はダメでも大人になったら必ずナオのことを迎えに行く! だから頼む! 行き先を教えてくれ!!」



「え……。『もうナオのことは忘れて俺の人生を生きなさい』って、なにそれ……」



◇ ◇


 こうしてナオたち家族は、俺に行き先を告げることなく引っ越して行った。


『ナオのことは忘れる』

 それが今の俺にできるたった一つのこと。


 でも、ナオのいない未来なんて俺はいらない。

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