第5話 勇者、聖女の最後を見届ける

「目覚めよ、勇者よ」


 その言葉とともに意識は目覚めた。

 昨晩の体験は夢……いや、たぶん現実だ。

 思い出される魔王の艶やかな姿、現実離れした体験。

 けれどそれを知っていると感づかれてはいけない。

 そう思いながら首を動かすと……やっぱりパンツとご対面。


「くくく、どうした? 首だけが動くことに驚いておるのか?

 当りまえじゃ。動けずにいると貴様にはこの光景が見えぬのじゃからなあ」


 パンと持っていた扇子を打ち鳴らした瞬間、パンツとの間の空間に映像が浮かび上がる。

 そこにはともに魔王城に突入した聖女が映っていた。

 けれどその表情は暗く、側には見知らぬ男がニタニタとした笑みを浮かべて立っていた。


「勇者よ。これは何じゃと思う?

 これは聖女とわしが用意した男との結婚式じゃ。

 聖女はお主が倒されたことを知ると、自分はどうなっても良いから勇者に温情を……と言って自らを差し出したのじゃ」


 魔王が言うと、聖女が何かを言っているが……その声は届かない。

 ショックを受けてしまっているということもあるし、魔王の用意した映像に声が入っていないのかも知れない。

 だがそんなことはお構いなしに、聖女は男と口づけを交わす。


「くくく、どうじゃ勇者よ。聞いた話によると、お主はわしを倒したらパーティーの女どもと結婚をすることになっておったらしいのう。じゃが現実はどうじゃ?

 結婚するはずであった女の一人はわしが用意した男に宛がわれ、お主はそれを見るだけ。


 おお、そうじゃ、何なら聖女の艶姿を見せてやろうではないか。

 お主とて男じゃから、それを見るのは嬉しいじゃろう?」


 愉快そうに笑う魔王の声に胸が張り裂けそうな痛みを感じた。

 そして、茫然としたまま……聖女と見知らぬ男の結婚式を見せられ続けた。

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