第3話 勇者の苦痛

「起きよ、勇者よ」


 ズンッとした重圧が全身を襲い、目が覚める。

 しかし体はやはり動かない。……いちおう目だけは動かせたため、視線を動かす。

 そこは石造りの小部屋で……目の前にはムッチムチの豊満な肉体をドレスで包んだ魔王フォクスロリアが立っていた。

 良くは分からないが、きっと動けない状態のうえに拘束されているのだろう。


「くくく、何が起きたのか分からぬじゃろう? お主にとっては、跪いてわしの下着を覗いていたところまでしか記憶にないのじゃからのぉ」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、魔王は言う。

 ……どうやら私室に持ち帰って、発情した魔王が正体を現し甘えまくっていたことは知らないと思っているようだった。

 もしも知られたと思ったら、どんな反応をするのだろうか……。

 気にはなるが、知られたらどうなるかは分からない。

 だから知らないふりをすることにした。


「さて、ここが何処か分からぬじゃろう。ここは拷問部屋じゃ。

 今日はここで、わし自らお主に拷問をしてやることにした」


 魔王は拷問器具を取ると近づきはじめる。

 手に取ったのは、編んだ革紐が九つに伸びた鞭。

 それを軽く地面へと振るい、打ち付けるとパシンと激しい音が響く。


「どうじゃ勇者よ。これは異界より伝わりし、拷問に適した鞭だそうじゃ。

 痛みが少ないぶん、多くの腫れを引き起こすという。これを……こうじゃ!」


 瞬間、ピリッとした痛みが体を襲う。それは魔王が振るった鞭が体に当たった痛み。

 その痛みが治まらないまま、なんども魔王は鞭を振るう。

 チリチリとした痛みが全身を襲いつづけ、見えないけれどもきっと全身に赤い線が走っていることだろう。


「痛いか勇者よ。……ほれ、顔だけを変えるようにしてやったぞ?

 ……くくっ、その顔、その顔が見たかったのじゃ。苦痛に歪むその顔、わしは興奮を隠しきれん。ほれ、もっとその顔を見せよ」


 愉しそうに笑みを浮かべる魔王。思惑通りに顔を変えたくない。

 そう思っていても、ヒリヒリとした皮膚の表面のみを傷めるというものには慣れておらず……顔が苦痛に歪んでしまう。


 そして、何度も続く刺激に頭が追い付かなくなり……、意識は遠のいていった。


「なんじゃ……、気を失ってしもうたか。つまらん、今日の拷問はやめじゃ」

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