俺は走った。


死にものぐるいで走った。


包丁を持った男が俺を殺そうと追いかけてくる。


背中に尖った鉄の感触を感じ、振り返るとその男の顔は見る見るうちにおばさんの顔に変わっていた。


さらに自分の足元に気持ちの悪い感覚があり、目線を下げると呼吸器をつけた女の子が俺の足にしがみついていた。


青ざめた顔をして俺を見上げている。


俺は恐怖のあまり気を失った。


目覚めるとそこは小さな小屋の中で、壁には農具がたくさんぶら下がっていた。


不気味な雰囲気を肌で感じた俺は起き上がり小屋の戸を開けようとした。


が、小屋の戸はビクともしない。


誰かが外から鍵をかけたようだ。


「あ、あ、けてくれ」なぜかうまく話せない。


口が縫い付けられているような違和感。


俺は自分の口を両の手を使ってくしゃくしゃにしてみた。


それでもうまく話せない。


なんなんだこれは。


俺の心臓は喉元まで上がってきていた。


このままでは心臓が口から出てきてしまう。


強烈な吐き気に襲われた俺は息が出来なくなり、またしても気を失ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る