第15話 放課後のささやかな夢

 翌日の放課後から部活は通常どおりの練習だった。一年以上のブランクがあるので、思っていたよりも練習はキツく感じていた。こんなにも体力が落ちていたんだと落ち込みそうになるが、なんとか毎日の練習に付いていき徐々に気持ちの余裕が出てきた。

 四月がもうすぐ終わり、明日からゴールデンウィークに突入しようとしていた。GW後半の最後二日間は完全休養で部活が休みになっているが、それ以外は練習試合を二日間組まれていてかなりハードな予定になっている。


「えへへーー、高校に入ってからの夢だったの!」

「なんだよ……その夢って……」


 ゴールデンウィークの初日の練習が終わり、帰り間際に結奈からファーストフードのお店に誘われた。午後からの用事もないので結奈の誘いにのって二人で来ている。

 上機嫌な結奈と注文した商品を受け取り窓際の座席に向かい合って座った。


「えぇ〜、だってなかなか学校帰りに行く機会がなかったからね!」

「はぁ……別に学校帰りじゃなくてもいいだろう」

「う〜ん、違うのよ、蒼生くん。同じ学校の制服で一緒に行くことに意味があるの!!」


 妙に興奮気味で喋る結奈に少し呆れ顔をしていた。なんでこんなことで結奈のテンションが高いのかよく分からないが、俺は練習後なのでお腹が空いている。

 結奈のことは置いておいてとりあえず目の前にあるバーガーを食べることにした。さすがに空腹だったのでいつもより一口が美味しかったので、俺もちょっとだけ顔が緩む。


「な、なんだよ……」

「ふふふ、なんだかんだ言って蒼生くんも満足してるじゃないの?」


 じっと俺が食べる様子を窺っていた結奈が嬉しそうな表情を浮かべている。この前、バッシュを買って帰りに二人で寄った時はこんな雰囲気ではなかったのに、何故今日は機嫌がいいのか不思議だった。でも結奈が満足してくれているのなら良いかと心の中で思っていた。

 二、三口食べて、ドリンクを飲みちょっとだけ落ち着くと、結奈も注文した物を食べ始めてやっと落ち着いた雰囲気になってきた。


「そういえば明日は練習試合だったな……」

「えっ、あっ、そ、そうだね」


 俺の呟きに結奈が慌てたそぶりを見せる。何故そんな反応になったのか不思議に思う。特別何かある訳ではない気がしたが……


「どうしたの?」

「う、うん……だって明日の試合相手は蒼生くんの中学時代に一緒のチームだった人がいるんでしょう?」

「あぁ、そうだよ……でも、過去の事を言ってもしょうがない。今はもう新しいチームで新しいチームメイトがいる」


 心配そうな顔をした結奈だったが、俺が自信を持って言った言葉にパッと明るい表情に変わった。


「うん、変なこと言ってごめん……見せてあげようね。パワーアップした蒼生くんを!」

「い、いや、さすがにまだそんなに状態じゃないよ、ははは……」


 結奈は何故か力強くガッツポーズみたいなポーズをしている。まるで自分の事のように思ってくれている結奈はすごく心強く感じた。


「でも素人の私が見ても入部した頃に比べると全然力強さとスピードは格段に良くなっていると思うよ」

「う〜ん、そうかな……俺的にはまだまだな気がするけど……」


 確かに結奈の言うとおり、チームの皆んなは同じような事を言っていたが、高校でやっていくにはまだ全然足りていない。中学の時は他の人より運動神経が良くてセンスが良かっただけだ。

 体が大きくて強い訳ではないので、高校で勝ち残っていくにはまだまだフィジカルを鍛えないといけない、気を緩めてはいけない、もう以前みたいにならない為には……難しく考えていると暗い表情になっていたみたいだ。


「ううん、そんな事は全然ないよ。蒼生くんこそもっと自信を持っていいよ!」


 真剣な顔をした結奈は力強く、はっきりとした声で俺を見つめていた。現実に戻された感覚がしてはっとした。目の前の結奈が普段あまり見せない表情だったので一瞬戸惑ってしまう。素直な気持ちを伝えてくれたみたいでドキッとした。


「そうだな、今出来る一番のプレーをすればいい……それに今は目の前に励ましてくれる人がいる。中学時代とは全く違うところで一番のパワーになるよ」


 明日の試合は意識しないようにしていたが、やはり無意識のうちに過去のことに気をとられていたのだろう。

 気持ちを切り替えて、もう一人じゃなくて新しいチームメイトとそれに結奈が側にいてくれている。俺には凄く力強いことだ。気が付くと俺がじっと結奈の顔を見つめていた。


「そ、そうだよ、わ、わたしがついているからね、えへへーー」


 ちょっとだけ視線を逸らすように結奈は照れた顔をして笑顔に変わった。無意識だったが俺の視線に恥ずかしかったのか、その表情が可愛らしかった。

 この最近、結奈のいろいろな表情が見られるようになって嬉しく思っていた。


(でも……彼氏でもないのにいいのかな……結奈のありのままを見ていても)


 そんなことを考えているとだんだんと俺も恥ずかしくなってきて、結奈への視線を逸らした。二人の空間から一時的に離れた時にふと思った。多分、周りから見ればこの二人は何をしているのだろうかと呆れられるに違いない。周囲の視線がちょっと恥ずかしくなってきたが、明日の練習試合は結奈のおかげでリキまずに臨めそうな気がした。

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