第14話 初めての部活の帰り道

 初日の部活が終わり、結奈と一緒に下校している。日が沈んでしまい辺りはすっかり暗くなった。先輩達との試合は十点差以上をつけて勝利した。第四クォーターは永尾から言われたとおりに好きなようにプレーをさせてもらった。


「今日の出来はどうだったの?」


 笑顔で結奈が俺の顔を窺っている。結奈は試合が終わった頃から何故か機嫌が良いのだ。理由は全然分からないが上機嫌なのはいいことだ。


「う〜ん、半分くらいかな……」

「えっ!? あんなに点を取ったのに半分の力なの?」


 目を丸くして結奈が驚いた声をげる。俺自身は正直な事を言っただけなので結奈の驚きにびっくりしてしまった。


「今の状態ではあれが限界だな……全般的に体力が落ち過ぎだったけど、みんなのおかげかな……あれだけ点が取れたのは……」


 あんなに気持ち良くバスケが出来たのはいつぶりだろう……これからこのチームでやっていくのがめちゃくちゃ楽しみになった試合だった。


「じゃあ、これから私達のチームはもっと強くなっていくね。すごく楽しみだよ!」


 すっかりチームの一員として結奈は期待に溢れた笑顔をしていた。初日からこの様子だと初心者の結奈でも安心して続けていけそうだ。でも結奈の機嫌の良さはそれだけじゃないような気がする。変わったことと言えばこれしかないはず……


「そうだ、俺が試合に出た後に原田と何か楽しそうに話してなかった?」

「うん、初めて話したよ。えへへーー」


 ちょっと意外だった、結奈とはこれまで全く接点がなかったのに、すごく楽しそうな笑顔をしている。あまりにもタイプが違い過ぎて、何か共通の話題があったのだろうかと不思議に思う。


「そうなんだ……見た目よりも話しやすいだろう」

「ふふふ、そうだね、きっといい友達になれそうだよ」

「そ、そうか、いい友達にね……よかったな」

「うん、本当は蒼生くんの事にあまりにも詳しいから元カノじゃないかなと疑ったりしたけどね、ふふふ……」


 結奈の衝撃的な発言に俺は思わず腰が抜けそうになる。一瞬、耳を疑って結奈の様子を窺うと機嫌が良さそうに笑っている。慌てて否定しようとしたが、よく考えると結奈は元カノじゃないと言っている。下手に言うと疑惑が再燃してしまう。


「ははは、何を言ってるんだよ、元カノなわけないだろう」


 さらっと受け流すように答えたようとしたが、変に芝居がかった言い方になってしまった。


「えへへーー、蒼生くん、なんか動揺したね」

「えっ、あっ、い、いや……」


 結奈が一瞬ムッとした顔をしたがすぐに笑顔に変わり、俺の反応を見てからかったと分かる。俺は怒るよりもほっとした気持ちが強かった。


「……ふふふ、原田さんが言ったとおりだ」


 慌てたり安心したりする俺の様子を見て結奈は意味深な言い方をして優しく笑っていた。きっと原田から入れ知恵でもされたに違いない、ちょっとだけ悔しい気持ちになった。

 部活初日からいろいろな事があったけど、こんなに穏やかな雰囲気で過ごせたのは俺にとって幸せだった。

 しばらく歩いていると思い出したように笑顔だった結奈が固く真面目な顔をした。


「ねぇ、でもよかったの? 先生のあの話は……」


 結奈が何を言うのか不安になったが、部活が終わった後に顧問で監督の宮瀬みやせ先生が言った事だった。

 その内容は、今回のインターハイの県大会は二、三年生中心にいくということだった。初め聞いた時は、何故と思ったがそのあとの話を聞いて納得した。多分、俺以外のメンバーも納得していると思う。

「まぁ、仕方ないよ。先生の言うとおりだし、それにインターハイのあとは俺達一年生の中心のチームになるからね」


 俺の返事を聞いた直後は結奈は意外そうな顔をしていたが、余裕な顔をしていた俺を見てちょっと感心した顔に変わっていた。悔しい気持ちがないわけではないが、今の状態ではまだまだ勝てる気がしない。

 七月にある一年生大会に向けてチームを作っていくのがベストだと判断した。


「でも全員がベンチに入れるし、交代で出る事もあるわよね」

「あぁ、もちろんだ。先生もそれは言っていたから、出る準備は最低しないといけない」


 もともと部員が少なくて、二、三年生だけで試合をするのは無理がある。交代で出場する機会はあるはずだ。一年生の俺達には場慣れするにはいい機会になると思う。


「そうだね。私もしっかりとマネージャーの仕事をしないといけないわ!」

「ははは、俺よりも結奈さんのほうが大変かもな」

「うぅ、そう言われるとちょっと不安……」


 急に結奈の顔色が変わっていく。もちろん結奈はバスケについては素人同然で、ルールも分からない事があるはずだ。先輩のマネージャーがいるわけでもないのでやらないといけない事はたくさんある。


「大丈夫だよ。何かあれば俺に相談してくれたらいいし、分からない事は教えてあげるから心配しないでいいよ。それに結奈さんなら出来るから大丈夫!」

「うん! ありがとう!!」


 俺の顔を見て曇りかけていた結奈の顔色がパッと笑顔に変わった。俺も結奈の顔を見て嬉しくなる。やっぱり笑っている顔は可愛くて、俺が好きな顔でちょっとだけ恥ずかしくなってしまう。


「ん……どうしたの?」

「い、いや、な、なんでもない……そ、そうだな、明日からも頑張っていくぞ!」


 俺の気持ちを見透かせれたのか、慌ててしまい咄嗟に誤魔化すと結奈はちょっと不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。そんな結奈の表情もやっぱり可愛くて思わず仰け反りそうになった。

 結奈とこうやって一緒に部活が終わって帰るとは全く想像をしていなくて、こんな日がこれから毎日続くのかと不思議な感じであまり実感が湧かなかった。

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