第16話 元チームメイトとの再会
翌日、練習試合の会場は相手の高校で、現地集合だった。俺は自宅から近いので一人で集合場所に向かった。
思ったより早く到着したので、まだ誰も来ていないみたいだ。時間になるまでとりあえず待っていようと思っていると突然声をかけられた。
「……宅見だよな?」
予期しないことで驚きながら声が聞こえた方向を見ると中学時代に同じチームだった
「おぅ、久しぶりだな!」
「あぁ、そうだな……」
俺が普段と変わらない感じで返事をすると声をかけた中谷は少し雰囲気が違っていた。気まずそうな表情をしている中谷だったがなんとなく察しはついている。
孤立気味だった俺が部活を辞めるまで中谷とは仲が良かった一人だ。
「そんな顔をするなよ。俺は気にしていないから、辞める時にも言っただろう」
「そうだけど……俺がもう少し宅見の味方をする出来たら辞めることにはならなかったかもしれないのに……」
「ははは、もう済んだ事だ。それに俺はまたこうやってバスケを始めることが出来た。それに許せないのはアイツだけだ」
最後は語尾が強くなったが、中谷に対しては責める気持ちは全くない。逆に俺の味方をしていれば一緒に部活から追い出されていたかもしれないのだ。
「そ、そうか……分かった。ありがとう……」
中谷の表情が少し緩んできた。もうここで過去の話をしても仕方がない、お互い新しい環境で部活を始めたのだから前を向いていきたい。
「それより中谷は今日の試合に出るのか?」
「えっ、あぁ、まぁ、一応レギュラーだから始めから出る予定だよ」
「おぉ、そうか〜さすがだなぁ」
笑顔で俺が話しているとやっと中谷も頭を掻きながら昔みたいに話してくれた。この高校のバスケ部のレベルだと中学時代にレギュラーだった中谷の実力なら一年から十分になれるのだろう。
「もちろん宅見も始めから出てくるのだろう?」
当たり前のような顔で中谷が話すが、俺が首を横に振って違うと合図すると驚いた表情に変わる。
「えっ!? 宅見の学校はそんなにレベルが高いのか? 先輩達が話していた実力と違うのじゃないか……」
「う〜ん、多分違わないと思う……中谷の先輩達が言っていたとおりのチームだよ。俺達一年生は全員スタメンじゃないだ。まぁ、監督が決めたんだけど、今回の予選も上級生中心のメンバーで試合に臨む予定だ」
「本気かよ……」
俺の返事に目を丸くして中谷がかなり驚いている。もちろん今日の練習試合も二、三年生が中心になる予定になっている。一応、その試合が終わった後に一年生中心の試合も予定してると聞いている。
「ははは、一年以上ブランクのある俺にとってはちょうどいいよ」
「ん……そうなものか……」
笑顔で話している俺とは対称的に中谷は難しい顔をしている。俺としては大袈裟に言っている訳ではない、まだ体力的には問題がある。
「ふぅ〜、蒼生くん、ここにいたのね。もう探したのよ、みんな集まっているから……」
いきなり背後から聞き慣れた声がしてきた。俺と中谷は声が聞こえた方向に目を向けると息を切らした結奈が立っていた。ちょっと機嫌が悪いみたいだ。
「ごめんな、中谷と話をしていたんだよ」
「あぁ、悪かったな、マネージャーさん」
俺が結奈に返事をすると中谷が頭を下げる。
「あっ、そ、そんな謝らなくても、久しぶりだね、中谷君」
結奈は頭を下げた中谷にちょっと驚いた顔をしたがすぐに笑顔になる。
中谷は中学三年生の時に同じクラスだったが部活の事で俺と距離を置いていたが、委員長だった結奈とは普通に接していたはずだ。
「えっ!? えっと、あれ? ん……? だ、誰?」
中谷は完全に混乱している。俺は中谷の反応を見て思わず吹いてしまいそうになった。結奈はちょっとムスッとした表情に変わる。結奈は目で俺に助けを求める表情をしている。でも中谷の動揺は仕方のないことなのだ。
「委員長だよ、三年の時の……」
混乱している中谷に教えたが全く理解出来ていない。それだけ結奈が中学時代と印象が変わったということなのだ。
「えっ、だって、委員長って、あの眼鏡をかけて……」
「ふふふ、そうだよ。あの眼鏡をかけたね……」
中谷の言葉を聞いた結奈は苦笑いをして棘のある言い方をしている。もともと機嫌が悪かったのが災いしてちょっとご立腹な様子のようだ。
混乱している頭の中を整理しようと中谷がひと呼吸を置いて、結奈の顔色を窺いながら俺の顔を見た。半信半疑みたいな顔をしていた中谷は、あきらめた表情に変わる。
「あぁ……声は間違いなく委員長だな」
「そう言っているだろう……」
「そうだな、そういえば宅見はよく委員長と一緒に勉強していたな……まぁ、宅見の場合は単純に委員長が教えるのが上手だったからみたいだけど……」
「あぁ、確かに、そのおかげで高校に入れたからな」
当たり前のような顔をして答えた俺に中谷が違う意味で納得したような顔で小さく何度か頷いた。中谷は頷きながら結奈の顔色を窺っていた。
「委員長、大変だろう……宅見はバスケに関して超一流だけど、それ以外は全然ダメだからな……まぁ、努力家の委員長なら大丈夫だろう、宅見のこと頼むよ!」
何かを悟ったかのような顔をして中谷が結奈に笑みを浮かべる。それに答えるように結奈は大きなため息を漏らしながら大きく頷いた。中谷と結奈の間で妙に納得したような空気が流れていて、突然俺は放置された気分になった。
「そろそろ行かないと、先輩達に怒られるわよ!」
思い出したかのように結奈が俺に向かって急かし始める。俺を探しに来ていた結奈はすっかり中谷との会話に捕まってしまっていた。
「分かった! じゃあ中谷、また試合でな」
「おう! 楽しみにしているぞ、宅見!」
中谷と力強く握手して、俺と結奈はみんながいる集合場所に急いで向かった。思わぬところで旧友に会うことが出来て懐かしい気持ちになれた。
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