第9話 入部と新しいチームメイト

 これから入部届を出しに行くのだが、分かっている範囲で入部希望の人数は自分を含めて五人を超えていた。当初の目標は達成出来たみたいだ。

 阿南と永尾以外は顔を知らないので今日が初対面となる。不安と期待が入り混じった感覚で部活の説明がある教室に向かっていた。


(なんで結奈は一緒に付いて来るのだろうか?)


 俺の隣には結奈が歩いている。当たり前の様な雰囲気を醸し出しているので聞くに聞けない状況だ。表情を見る限り何か楽しそうなので、もしかしたら様子を見るだけなのかもしれないと理由は聞いていなかった。

 教室に着いて扉を開けると既に俺以外は揃っている様子だった。


「おぉ、ちゃんとやって来たなー!」


 俺に気が付いた永尾が声をかけてきた。永尾の隣には中学時代に何度か対戦したことのある江田中の元キャプテンの猪口敬志いのくちたかしが座っている。


「久しぶりだなー、まさか宅見と永尾と同じチームになるとはね。これじゃあ俺は控えに回るな」


 笑いながら猪口が話しているが、猪口が下手と言う訳ではない。少なくともスタメンでレギュラーだったのだから俺はなんて答えたいいのか迷ってしまう。


「そんなことはないさ、俺も一年以上ブランクがあるからな全然ダメだよ」


 自虐的なことを言って笑いながら答えたが猪口と永尾が二人合わせて首を振っている。


「いやー、それはないないー、宅見には敵わないよ!」


 二人が口を合わせて言っているが、俺の事をあまりに期待しすぎている。俺は二人が言う事を聞き流す様に後ろ側の席に座った。


「ふふっ、やっぱり蒼生くんは凄いんだね!」

「な、なにを言い出すだよ……」

「えぇ、だって私の身近な人がみんなから凄いって言われると嬉しいよ、えへへーー」

「そんな俺はたいした事ないよ」


 まるで自分の事のように上機嫌な結奈は嬉しそうな顔で俺の隣に座っている。俺は首を傾げながら笑顔の結奈を見ていた。まだ結奈が何故ここにいるのか分からない。ちょっとだけ覗いて帰ると思っていたので謎のままだ。

 まだ二、三年生が揃っていないみたいで始まる様子はない。前を見ると永尾達とは別にグループがあって同じクラスの阿南の姿が見える。阿南を含めて四人いるので永尾達と俺を入れて新入部員は七人みたいだ。


「予想以上の人数になったなぁ、とりあえず良かったよ」

「うん、そうだね。結局、私は何も協力出来なかったけれど、これで一安心だね」


 何も手伝えなかったと結奈がちょっとだけ残念そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻った。でも俺はそんなことはないと思っている。結奈の存在があったからこそ今この場にいることが出来る。ちょっとだけ感傷的になりそうだったが、そんな気持ちになっている場合ではない。


「あぁ、これだけ人数がいれば試合や大会にも出られるからな、楽しみだよ!」


 そもそもは結奈の喜ぶ顔にさせようと始めた部活はまず第一段階をクリアした。ここからが本番になのだ。まだ何も体を動かした訳えはないが、気分も少しだけ盛り上がってきた。


 やっと先輩達が揃い説明会を開始させた。簡単にチームの方針と練習の日程や今後の大会についての話があった。部員が少ないこともありチームとしてはそんな厳しい雰囲気はないみたいで安心した。

 そして最後に簡単な自己紹介をすることになった。俺達一年生から順に始まり、意外なことが判明した。


「割といいところまでいけるかもしれないな」

「うん、そうみたいね……こんなことあるのね」


 一年生がひと通り自己紹介が終わり、隣の結奈を見て思わず呟いてしまう。結奈も頷きながら驚きを隠せない表情をしている。

 永尾と猪口の実力はある程度把握している。阿南が連れていた三人の実力も恐らく永尾達に匹敵するぐらいの力がありそうなことが分かった。先輩達の自己紹介が続いていたがあまり頭に入ってこないぐらい興奮していた。


(ポジションもほとんど被っていない、かなりバランスのいいチームが出来る……若干層が薄いけど)


 先輩達の自己紹介も終わり、解散になるのかと思っていると気になることをキャプテンが言い始めた。


「最後に……今年は久しぶりにマネージャーが復活しましたーー」

「おぉーー!」


 周囲から歓声みたいな声が上がると、隣に座っていた結奈が立ち上がり挨拶を始めた。俺は呆気にとられてただ眺めていることしか出来なかった。結奈の自己紹介も無事に終わり部活の説明会が終了して解散になる。


「……結奈さん、先に言っておいてくれよ」


 先輩達は教室を出て行ったが、俺はすぐに立ち上がろうとはせずにジッと結奈を見ている。結奈は不思議そうに俺の顔を見て悪気がない表情で微笑んだ。


「えぇ〜だって、ずっと一緒にいたから分かってたでしょう?」

「……ううん、最近ずっと一緒にいるからあまり違和感を感じなくて……」

「えへへー、そうだね確かにずっと一緒にいるよねー、これで部活でも一緒だよ!」


 最近は当たり前のように側にいるので気が緩んでいた。冷静に考えれば分かりそうだった。嬉しそうな笑顔で結奈がはしゃぐように話していると相変わらずだなと言う顔で阿南と一緒にいた三人が俺の前にやって来た。


「よろしく頼むよ!」


 右手を差し出して握手を求めて声をかけてきたのが、村野大介むらのだいすけだった。その隣にいるのが山西裕やまにしゆたかで二人とも福中で阿南が言っていた同じ地区の競合していた中学のレギュラーだ。


「いやマジで、緑中の宅見と一緒のチームになるとはね」

「こちらこそ、頼むよ」


 村野と握手をした後に山西とも握手をする。もう一人が阿南と同じ中学だった山寺直樹やまでらなおきでキャプテンしていたみたいだ。


「マジで謙人が言っていたとおりだな、これはかなりいいチームになりそうだ。よろしくな!」


 山寺とも握手して三人ともフランクな感じで話しやすそうでほっとする。実際に一緒に練習をしてみないとはっきりとしないが、きっと上手いことやっていけそうな気がした。

 阿南を含めて五人で話していると、永尾と猪口も加わり新入部員同士でしばらくの間話が弾んだ。その会話の輪の外で除け者みたいになった結奈が怒っているかと心配して様子を窺うと、逆に安堵した顔で微笑みながら俺を見ていた。

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