第10話 初練習
説明会が終わった後、いつものように結奈と下校している。結奈がマネジャーをする話はちゃんと聞いていなかったので驚いた。そもそも結奈は運動が得意ではないはずだ。
「よかったのか、マネージャーになって?」
「えっ!? な、なに突然?」
結奈は驚いた顔で目を丸くして俺を見ている。実際にバスケをする訳ではないが、マネジャーと言えどやはり体力が最低限必要で心配になってきた。
「思っている以上に大変だぞ……」
「うん、分かってるよ。ちゃんと体力をつけてしっかりとルールも覚えてみんなに迷惑がかからないようにするからね!」
「本当にいいのか? 結奈さんが入りたい部活とかないのか? いいんだぞ約束のことは……」
俺がひとつ引っかかるのが結奈とした約束の事でそれを気にしているのではないかと心配している。
「うん、いいんだよ。私が希望して入ったの……それに側にいればすぐに助けることも出来る。もう蒼生くんにつらい思いをさせたくないからね」
「そ、そうなのか、結奈さんがいいと言うのなら……でも今度は上手くやっていけそうだよ、ありがとう」
「……うん、あとね、近くでカッコいい蒼生くんを見ていたから……えへへ」
最後は笑って誤魔化した結奈だったが、やっぱり過去の事は気にしてくれているみたいだ。俺も側に結奈がいる事は心強くて、今一番に信頼しているのでいろいろ安心が出来る。
「う〜ん、結奈さんの期待に添えるか分からないけど頑張るよ」
「大丈夫だよ! 蒼生くんならきっと出来るから楽しみにしてるよ!」
俺のちょっと自信無さげな言葉を打ち消すように結奈はいっぱいの笑顔で励ましてくれた。これだけ言われて励まさられるときちんと結果を出さないと情けない。明日から練習中での弱気な言葉は控えていこうと決意をした。結奈には心配をさせないようにしないといけないと笑顔の結奈を見て強く思った。
翌日、放課後に初部活がある。朝から結奈はそわそわした感じでいつもとは違う雰囲気で、俺もさすがに午前の授業が終わる頃には放課後が待ち遠しかった。
午後の授業が終わり結奈は準備の為に先に教室を出ていき、俺も後から部室へ急いだ。部員が少ないので一年生から部室を使用してもいいみたいだ。
「おっ、宅見かーー先に行ってるぞ」
部室に着くと入れ替わるように永尾が出てきた。誰か知っている部員がいればよかったのだが、もし先輩しかいなかったらちょっと嫌だなと部室の中に入る。
運良く先輩達はまだ来ていないみたいで、ちょうど猪口が着替えていた。
「よう、宅見じゃないか、今日からよろしくな」
「う、うん……こちらこそ、よ、よろしく、お、お願いします」
思わず吃るような口調でぎこちなく頭を下げると猪口は驚いた顔をする。
「ははは、そんな硬い挨拶しなくても、これから同じチームなんだから気楽にいこうぜ!」
猪口は楽しそうな表情で笑っている。猪口の表情を見て俺は少し落ち着いた気持ちになった。まだ少し中学の時のトラウマがあるのかもしれない、自分でも予期していなかった事だった。
自覚はなかったが緊張しているみたいだ。まだ時間もあるみたいなので気持ちを落ち着かせようとゆっくりと準備することにした。鞄に入れていたバッシュを出して床に置いて眺めるといろいろな気持ちが溢れてきてなかなか着替えが進まない状況になってしまった。
この学校には体育館が二つあって第二体育館をバスケ部が使用している。体育館に到着すると二、三年生を含む大半の部員が集合していたが、まだ練習は始まっていないみたいだ。
「おっ、やっと来たか、遅かったな」
すぐに永尾が気が付き声をかけてきた。他の部員はシュート練習をしたり雑談をしたりで俺の存在にまだ気が付いていない。再び永尾もシュートを打ち始める。
「少し着替えるのが遅くなったんだ……またバッシュを履く日が来るとは思っていなかったからなぁ」
「そうなのか……でも今度は大丈夫だ、きっと上手くいく……うん、間違いない!」
力強く永尾が頷いて笑みを浮かべる。その表情は不安な俺の気持ちを知っているようで勇気付けてくれた。
他の部員がゴール近くでシュートの練習をしている中で、コートの真ん中に向かった。ちょうどコートの中央に立ちゆっくりとぐるりと周り見渡した後に遠くにあるバスケットのゴールを見つめる。
「本当に、戻って来たな……」
コートの真ん中で感慨にひたっていると結奈が俺の背後にすっと寄ってきた。
「……蒼生くん、似合うね、うん、やっぱりかっこいいよ!」
「えっ!? な、なに、冗談言ってるのだ……」
「だって本当だよ、えへへーー」
一人で佇んでいた俺を心配したみたいだ。でもさすがに恥ずかしくて思わず照れてしまう。結奈は嬉しそうに笑っているので恥ずかしさを隠そうてひねくれたような言い方をする。
「まだ何もしていないのにかっこいいも何もないだろう?」
「ふふっ、でもこれからいっぱい私に見せてくれるのよね! たくさん楽しみにしてるよ!」
俺の言い方も気にすることなく笑顔いっぱいの顔で結奈が答えた。素直であまりにも眩しい表情に見惚れてしまう。
(そうだ、この顔を……これからたくさん、結奈をこの笑顔に……)
これだけ喜んでくれると俺もすごく嬉しいし、モチベーションにもなる。きっかけを作ってくれたのも結奈だ。声にはしなかったが心の中で決めた。
「……う、う〜うん、あ、蒼生くん、そんなに見つめられると恥ずかしいよ」
「えっ、あぁ、ご、ごめん……」
気が付きくと結奈が固まったままで顔を真っ赤にしていた。俺はじっと結奈の顔を無言で見つめていたみたいだ。全く無意識だった俺も結奈に言われて顔が熱くなるのが分かる。
お互いに何も言い出せず二人の間に微妙な空気が流れていると、集合の合図が聞こえてきた。現実に引き戻されたような感覚になって、結奈と目が合うとお互いに小さく頷いて部員が集合している輪に向かって急いだ。
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