第7話 部員探し
週が明けても状況は何も変わっていなかった。週末に結奈と話し合ってからこれと言っていい案が出てきていない。地道に探すしかないようだ。
昼休みに当たり前のように結奈は俺の席で一緒にお弁当を食べている。小さめのお弁当箱だがバランスよく美味しそうなお弁当だった。それに結奈自身が作っているらしく、さすがは元委員長だと感心した。
二人ともほぼお弁当を食べて終わり、昨日の話の続きをしていた。
「う〜ん、悩んでも仕方ないよ。きっと入部希望者は自然に現れるじゃないかなぁ」
意外と楽観的な結奈は明るい表情をしている。今週末が正式な入部の手続きの締め切りになっているのでまだ時間はある。
「……そうだな、でもこの学校では評判がイマイチの部活だから希望者がいるかどうか……」
進学校で特に有名でもないバスケ部で入部希望者が多数いるかどうか怪しいし、二、三年生を見る限り新入部員が入ってくるのは現状厳しいような気がする。
「それにあまり部員数が多くても大変じゃないかな? 少数精鋭って感じのほうがいいんじゃない」
「う〜ん、でも初心者ばかりだとなかなか厳しいから、出来れば経験者がいてくれたならいいけどそんなに上手いこといかないよな……」
元気づけようとして結奈は笑顔で話すが、俺は相変わらず難しい顔をしていた。現実はそう甘くないと思っている。
「ふふっ、きっと大丈夫だよ! あまり焦らなくてもなんとかなるよ!!」
微笑みながら結奈が自信のある表情をするので、俺も悩んでばかりいてはダメな気がする。少しは前向きになろうとしていた。
すると突然、背後から男子に呼び止められた。
「あのー、彼女との休憩中に悪いのだけどー」
「えっ、あっ、か、彼女では……」
いきなりのことだったので慌てて返事をしよとしたが、相手はあまり聞いていないみたいで次の質問が飛んできた。
「えっとーー た、宅見は緑中のバスケ部の宅見で間違いないんだよな?」
若干、興奮気味な口調で問いかけてきたので、ちょっと勢いに押され気味だ。俺はとりあえず小さく頷いた。
「あぁ、そ、そうだけど、な、なにか……」
「わ、悪いな、驚かせて……俺は同じクラスで温中の
慌てている俺に気が付いたみたいで名前を名乗ってきた。自分の席の周りは名前を覚えたが、離れている席の顔と名前はまだ一致していない。
「こっちこそ、悪かったな……まだ覚えきれてないんだよな」
「ははっ、仕方がないよー、それにしてもあの宅見がこの学校にいるとはね……驚いたよ」
素直に驚いたみたいで阿南は俺の顔をじっと見続けている。俺も正直、他の中学の生徒が知っていることに驚いていた。
そもそも温中は俺の中学とは違う地区の学校で予選などの公式戦で試合をしたことはなかった。でも俺のことを知っているということは、最後の大会に出場していないことはきっと知っているはずだ。
「まぁ……いろいろとあって……」
あまり詮索はされたくないが、こうなるとやはりどうしてなのかと理由を聞いてくるだろう。少しだけ構えていると意外な反応だった。
「宅見みたいな選手がこんな学校に来るには何かしらの理由があるのだろうけど、まぁ、いいよ理由なんか……それよりもバスケ部にはやっぱり入らないのか?」
阿南は本当に気にならないのか、それとも空気を察したのか分からない。それよりも俺が入部するのかが気になるみたいだ。気を張っていた俺は思わず拍子抜けしてしまいそうになる。
「えっ、あっ、あぁ、一応、入部するつもりでいるけど……」
「そ、そうか、よかった! これで結構強いチームになりそうだな!!」
「ん……ということはまだ他にいるのか? バスケ経験者で入部予定者が……」
嬉しそうな顔で阿南の言った言葉が気になった。まさかこんな形で部員が集められるとは予想外で驚いてしまう。
「おぉ、そうだな、宅見とは違う地区だから知らないと思うけど、二組に俺と同じ中学のキャプテンがいて、三組と四組に福中のキャプテンとレギュラーのガードがいるからな、あいつらもたぶん入部するはず……」
「そ、そうなのか……」
ちょっとだけ声のトーンが落ちる。ただの経験者ではなくかなりの実力がありそうな気がして、楽しみな反面、若干不安も出てきた。また中学の時の二の舞にならないか……
「そんな心配しなくてもいいぞ、二人ともいい奴だから。それに宅見と同じチームになれると聞いたらきっと喜ぶだろうな、はははー」
微妙な表情の変化を察してくれたのか、阿南は楽しそうに笑っている。結構、空気を読んで気にするタイプのようで一緒にやっていけそうな気がした。
「そうだなー うん、せっかくだしこのまま、あの二人に伝えてこよう!」
「……えっ!?」
急ぐように阿南が行動を起こそうとして、俺は呆気にとられていた。
「それにせっかくの彼女との時間を邪魔してもいけないからな、じゃあ、また明日連絡するよ」
そう言って素早く阿南は移動して行った。俺は呆然した感じで後ろ姿を見送っていたが、すぐに結奈のことを気にした。落ち着いて正面に向きを変えて、目の前にいる結奈の様子を窺い、相手にしていなかったので機嫌を損ねいないかと不安になる。
「……か、かのじょって……えへへ〜」
何故か結奈はかなり嬉しそうな笑顔でめちゃくちゃ上機嫌で、阿南が言った『彼女』という言葉に思いっきり反応していたみたいだ。昨日の今日で……心配した俺は力が抜けてしまう。
「あっ、えっと、ち、ちがうよ、えへへ……う、うん、良かった! とりあえず部員が集まりそうで、それも経験者ばかりで」
俺の顔色を見て結奈は慌てて真面目な表情に変える。さすがは元委員長だけあって変に動揺することなく対応してくる。
(俺としても結奈を彼女と間違われても嬉しいけど、まだ時期が早いよな……)
意識しない訳じゃないが顔には出さないように気を付ける。
それよりも思わぬところで部員が集まりそうだが、あと一人最低欲しいところだ。
「俺を含めて四人、あと残り一人だ。アイツに声をかけるしかないか……」
呟くように俺が口にすると、結奈は首を傾げて不思議そうに見てくる。
俺にも一人当てがあるのだがあまり気が乗らない。アイツは俺がバスケをやらないと思っているはずで、声をかけるには少々気が張ってしまいそうだ。
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