第6話「決戦」

「アランさん」

「どうしたのだ?」

「ありがとうございました。私を選んでくれて」

「何を改まって。礼を言うのは早いのだ。まだ目的も達成していないのだ」

「そうですね。でも、今のうちに言っておきたくて」

「こちらこそ、某に協力してくれて感謝なのだ。レイラが居てくれなかったら、今頃どうなっていたか分からないのだ」

「その仲間の女性も、無事だといいですね」

「無事なのだ。きっと、無事に違いないのだ」

「では行きましょう」

「歯がゆいことに、某は戦う事はできないのだ。でも教えられることは全部教えたのだ。あとはレイラが奴を討ってくれるだけ。某はそなたのために、肉の盾になるのだ」

「あの、でもできるだけ、私もアランさんも死なない方向で」

「ふふっ。もちろんなのだ。・・・魔法の剣は持ったのだ?」

「まぁ、持ってますけど?このクソ剣が無いと、魔女殺せないって言うし」

「なんでその剣のことになると、性格変わるのだ?試練で何があったのか本当に気になって夜しか眠れないのだ」

「しっかり寝てるじゃないですか。いいから行きますよ。・・・パパ、ママ。私を守って」

「その形見の剣は効かぬと申したのだ」

「いいんです。これは私の宝物だから。では・・・行きましょう!!」




********************


「魔女よ、覚悟するのだ!我こそは剣士アラン=マスキールなのだ!!」

 再び家に突入し、アランは高らかに宣言する。小さな魔女は、アランの突然の登場に驚きもせず、優雅に紅茶を飲んでいる。

「うーん。朝の一杯。沁みるわぁ☆」

「貴様!朝はアイスコーヒーと決まっているのだ!!」

「ナンセンス。紅茶一択☆」

「ぬぅぅ。やはり貴様とは合わぬのだ。必ずここで倒すのだ!」

「あは☆剣も持てない剣士がどうやって?せっかく命は助かったのに、今度こそ本当に殺されに来たのんだね☆バカなのかな?それも当然か!頭ん中に詰まってるの、脳みそじゃなくて綿だもんね!」

「ぐぬぅぅ!綿でもちゃんと考えられるのだ!ところで貴様。ミシェルはどうしたのだ?」

「さぁ?どうしたんでしょう?」

「言わないなら、無理矢理吐かせるまでなのだ!行くぞ、魔女よ!」

「ぬいぐるみ風情が何を☆しばらく愛玩使い魔にしようと思ってたけど、やっぱ辞め!バラバラになっちゃえ!」

 魔女が杖を突きだすと光線が照射され、アランのぬいぐるみの五体は、バラバラに粉砕した。

・・・が。

「パパとママの仇!覚悟!!」

 大きなクマの身体の後ろに居たレイラが、魔法の剣を突き出して突進する。

「あんた、レイラ!?まだ生きてたの!?てか、それ、魔法の剣じゃない!?うっそー!?」

 魔女の二回目の粉砕魔法は間に合わない。魔女は仕方なく杖で剣に応じる。ギャンギャンという金属のぶつかる音が家中に響く。

「ちょ、ま、待ってよぉ☆」

「待たない!」

 レイラの鋭い剣閃をギリギリで躱す魔女。身体が子どものように小さく、器用に家具を盾するので、その光る刃は中々届かない。

「あんた分かってるの!?今ここであたしを殺すと、ぬいぐるみにしたアランやお仲間のミシェルがそのまま元に戻るのよ☆」

「え!?」

「ここで問題☆今、アランとミシェルたんは、どぅーなってるでしょぉーか!?」

 レイラはふと周りを見渡す。アランだったクマのぬいぐるみの手足や頭はバラバラになっている。

「ちなみにミシェルちゃんはそこの箱の中だよ?」

 見ると、むき出しのおもちゃ箱の中には、クマのぬいぐるみと思しき部品が、バラバラに入れられていた。

「・・・顔が無いみたいだけど?」

「頭はねぇ。我慢できなくて、食べちゃった☆見て見てあたしの眼。あの子の青い瞳だよ?綺麗だから、貰っちゃった☆」

「お、お前ぇぇぇ!!」

「ハイ、隙アリ☆」

 杖から放たれる光線。

「剣を構えるのだレイラ!!」

 首だけになったぬいぐるみのアランが叫ぶ。レイラは咄嗟に魔法の剣を突き出した。光線は剣に弾かれ、周囲に分散する。しかし光線の方が勢いが強く、レイラの身体が後方に押されていく。

「ぐ、ぐぅうう」

「踏ん張るのだ!頑張るのだレイラ!そなたならできるのだ!」

「負けない!私は・・・負けない!!」

 少しずつではあるが、レイラが押し勝ってきた。ゆっくり。ゆっくりと前進していく。

「あ、もう無理。疲れた☆」

 突然、光線の洪水が止む。勢いが一瞬で無くなったので、レイラは前によろめく。

「ハイ、隙アリ☆」

 魔女は勢いよく「ブンッ」と杖を振るい、レイラの手に持つ魔法の剣を弾いた。光線と拮抗し耐久力が落ちていた魔法の剣は、粉微塵に粉砕する。

「Yes!ざっまぁ!!」

 レイラがあからさまにガッツポーズをする。

「??頼みの綱の武器が壊れて喜ぶ、アンタの神経が分からないんだけど??」

「両親の仇!!」

 レイラはそのまま突進し、腰にさげていた形見の剣を抜いた。

「それ、魔法の剣じゃないじゃん。そんなんであたしは」

 ザンッ!!

「・・・あれ?」


 魔女の視界が天地逆転した。

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