第4話「魔法の剣」

「えい!ほっ!えい!ほっ!」

「なかなか筋が良いのだ。レイラ殿は元から剣術を習っていたのだ?」

「レイラとお呼びください、アラン様。・・・昔、剣の先生に教わっていたことがあるのです。先生が亡くなられてからは独学ですが。いつもここで鍛錬を。いつかあの魔女を討ちたいと思って」

「そうだったのか。某、いつもこのミスタービャ橋を通って鍛錬しているのに、レイラの姿を見たことはなかったのだ。気づいてあげられず、申し訳ないのだ」

「気にしないでください。頑張っていらっしゃるのを毎日見ておりました。今はこうして剣を教えていただているので、ありがたい限りです」

「なぁに。自分のためにしているだけなのだ。この“ぬいぐるみの手”では剣を持つこともできぬ身。レイラが代わりに戦ってくれるのなら、願ったり叶ったりなのだ。とはいえ、かの魔女の力は強力。鍛錬だけでは倒せぬのだ」

「と言いますと?」

「某の愛剣“ドーンレス”で斬っても斬れなかったのだ。あれは既に、“この世の理”から外れているのかもしれぬ。だから、特別な剣を用意する必要があるのだ」

「この剣ではダメなのですか?」

「それは?」

「父の形見なんです。魔女に両親を殺された時から、この剣で復讐しようと心に決めておりました」

「レイラの気持ちは分かるのだ。だけどやっぱり、普通の剣では、あの魔女は倒せないのだ。今から、剣を借りに行くのだ」




********************


「わぁ、大きな木」

 樹齢3000年はあろうか。幅3mを優に超える巨木が、二人の前にそびえ立っている。その幹に、人が立って入れるほどの空洞があった。

「大樹ギガンティアなのだ」

「ここに妖精さんが?」

「空洞の中に淡く光るキノコがあるのだ。それを食べると酔っぱらったようになって、妖精の国に入れるようになるのだ」

「・・・へ、へぇ・・・」

「訝(いぶか)し気な顔で見ないでほしいのだ。大丈夫。死んだりしないのだ。仮死状態になるだけなのだ」

「・・・私、遠慮します」

「すまぬが、このクマのぬいぐるみの身体では、物を食べることができないのだ。レイラ殿にお願いするしかないのだ。もしどうしても嫌だったら、他に食べてくれる人をイチから探さないといけないのだ」

「絶対嫌です!見た目にもアヤシイし、いくら魔法の剣を手に入れるためとは言え、こんなこと」

「騒々しいのぉ!門の前でクチャクチャうるさいどぉ!」

 二人が振り返ると、青い光をまとった、蝶の羽を持つ人型の生き物が浮かんでいた。手のひらサイズで、老婆のような風体だ。

「おお!妖精の長殿。久しぶりなのだ」

「アランかぇ?こりゃまた随分珍妙なことになっておるのぉ!魔物かと思ったぞぉ!」

「魔女にやられたのだ。長殿から現れてくれるとは有り難い。散歩中なのだ?」

「何か嫌な気配がすると思って来てみただけだよぉ」

「面目ない」

「アランのことじゃないどぉ。この娘っ子じゃてぇ」

「レイラが?」

「妖精さん!」

 レイラはしきりに首を振る。

「・・・まぁ、それぞれ事情があるじゃろうてぇ。で、用件はなんじゃあ?」

「魔法の剣をお借りしたいのだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る