第2話「変身」

「どうしてこうなった。どうしてこうなったのだ」

 話は1週間前に遡(さかのぼ)る。

 「幻惑の魔女」の再来。そんなきな臭い噂を耳にしたアランは、討伐依頼を受けてランバスの森に入った。一度倒した相手だが、油断は無かった。元よりアランは慎重なタイプだ。油断などあろうはずもない。

 森の最奥に件(くだん)の館はあった。煙突から紫色の煙が出ている。中から魔女の呪文のような声も聞こえている。

 アランは先手必勝の文字通り、戸を蹴り破って突撃した。

「幻惑の魔女、覚悟なのだ!!」

 愛剣“ドーンレス”の先鋭が唸る。その切っ先は確かに魔女の肉体をズブリと捉え、刺し通した。魔女は断末魔の悲鳴をあげる・・・が。

「このワタシが、二度も同じ手を食うと思うのかい!?」

「しまった!幻影なのだ!?」

「死ねぇ!剣士アラン!!」

「死ぬのはあなたです、幻惑の魔女」

 ――瞬速一閃。

 閃く細剣が魔女の首を刎ねた。

「キ、キサマ・・・は・・・青眼(あおまなこ)の・・・」

 豊かな銀髪をなびかせ、青い瞳の女剣士は細剣を振るい血を飛ばす。

「作戦通りなのだ。ありがとうなのだ。ミシェル」

「あなたの言う通りだったわね、アラン。まさか本当に復活してるとは思わなかった」

「無事討ち取れて良かったのだ。アイスコーヒーをごちそうするから、某の家に寄ってほしいのだ」

「ありがとう。でも次の機会にしておくわ。他の四天王も復活してるといけないから。仲間にも伝えないと」

「いかにも。では、某も同行するのだ」

「また一緒に旅ができるわね。嬉しい」

「まことに」


「隙アリ☆」

 声に驚き視線を移したが遅かった。

「きゃあああ!」

 魔女の釜の煙突から、逆さに頭を出した小さな赤毛の女の子一人。その杖から発射された光線が直撃し、青眼の君、ミシェル=フォン=オブライアは悲鳴をあげた。

「身体が・・・なんか・・・へん」

「ミシェル!?大丈夫なのだ!?」

「逃げて!」

「ミシェル!」

「早く逃げて!!」

「逃げぬのだ!剣士アランは、仲間を見捨てて逃げることなど、絶対にしないのだ!!」

「あっはー☆かっくいーっ?」

「魔女の仲間か!?・・・こ、こんな子どもが!?」

「失礼な奴ぅぅ☆あたしゃこいつの師匠だよぉ?こんなナリだけど、315歳☆」

「では心置きなく、首を飛ばしてやるのだ!」

「いいよ?」

 ズバン!!・・・とはならない。

 アランの振るった剣は、小さな魔女の首を素通りする。

「幻影!?」

「ちょーっと違うかな?フツーの剣じゃ、あたしを傷つけることはむりむりー?」

「アラン!逃げて!」

「でもミシェル!!」

「今は退(ひ)いて!そして、いつか!私を助けに来て!」

 次第に変化していくミシェルの肉体。ミシェルは渾身の力でアランを突き飛ばした。

「さぁ!」

「おおおーん!ナンて感動的!あたしゃそういうの大好物だよ?でも隙アリ☆」

 アランは歯を食いしばり、走って逃げたが、背中越しに光線を浴びてしまう。

「ほがぁあああああああああ!!」




********************


(身体が重たいのだ。意識がふわふわするのだ。某はどうなったのだ?)

 ふと見上げると、そこには一筋の川が流れていた。覗き込んでみると。


 大きな、ふわふわのクマのぬいぐるみが、映っていた。


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