アランの優雅な日常・・・壊れる

ぶんぶん

第1話「壊れぬものなど、何もない」

 アラン=マスキールの朝は、一杯のアイスコーヒーから始まる。南国ポスカーラで採れた上質な豆を挽き、北国ノリッソで削り出された天然氷と合わせる。ガラス細工で名高いエズロンの街で購入した金縁グラスで飲み干し、そして森の中に設(しつら)えた台座の上で、瞑想するのだ。30分ほどそうした後にトレーニングに出る。魔王が討伐されてから1年が経過していた。魔物の数もだいぶ減ったが、いつか再び戦いが起きる時に備え、鍛錬を欠かさない。愛剣“ドーンレス”を腰にさげ、森を出てサン・ロルスの廃墟を通り、ミスタービャ橋を渡って、アンの町に入る。そこで脚を病んだローズ婆さんの代わりに、食料や生活必需品の入った重い袋を担いで配達しつつ、町を外周する。最後にモロモロ山の頂上で剣を振るい、そして来た道をまた走って帰るのだ。

 かの、「青眼(あおまなこ)の君」には及ばぬとしても、剣士アラン=マスキールの名はそれなりに知れ渡っていた。魔王討伐の際、四天王の一人「幻惑の魔女」を討ち取った武勲は、静かな生活を望んで越して来たこの田舎町アンにおいても、既に知れ渡っていた。最初は面映(おもは)ゆい心地になりながらも、人々が自分を慕い、色々と構ってくれるのはアランにとって心地良いものだった。

「よぉ、アランの旦那。おはよう。今日も精が出るね」

「おはようなのだ。別に特別なことをしているわけではないのだ。これが某(それがし)の日常なのだ」

「王宮からたんまり報奨金もらっただろうに。鍛錬なんて止めて、贅沢して暮らしちまいなよ。誰も責めやしねぇって!それくらい頑張ったんだからよ!」

「それではダメなのだ。生活のゆるみが気のゆるみ。ひいては、命のゆるみとなるのだ。剣士アランに隙はないのだ」




********************


「隙アリ☆」

「ほがぁあああああああああ!!」


 そこそこ名高い剣士、アラン=マスキールは倒れた。

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