母と父の会話

「あなたなのね、私とリーナを助けてくれた」

 母は黒装束に話しかけた。

 

「ああ、気付かれてしまっていたか。あんな助け方になってしまってすまない、あの場ではあれ以外の方法がなかったんだ」

 少しかすれた声で話し始めた黒装束。


「いいのよ。私たちの子は無事に救えたわ」


 なんとリーナと母を助けた黒装束は、父だったのだ。


「ああ、そうだな。モズにこの姿に変えられてしまって随分経ってしまった。もう人である意識も薄れてきている」

 黒装束に変えられてしまった者は、時間が経過するにつれて自我が崩壊してしまう。


「この体になって、長い間暗闇を彷徨っていた。モズに殺されたあの時俺の魂はあちら側に飛ばされたんだ」


「どうやって戻ってきたの」

 母は父に聞いた。


「どうやって戻ったのか自分でも分からない。ただ、君とリーナの苦しむ姿がよぎって...気が付いたら体が動いてた」


「あなたらしいわ。スベンにも心から感謝したい、彼がいなかったら今頃どうなっていたか」

 父と母はスベンの亡骸を見つめながら呟く。


「そうだな。しっかりと埋葬してあげたいが、そういう訳にもいかないみたいだ」

 二人が話していると廊下から激しい足音が聞こえる。

 

 久しぶりの再会はあっという間に終わりの時間を迎えた。厨房の入口に目をやるとドアが詰まる程の黒装束が集まってきている。


「お別れだな。俺のトマトジュース作戦どうだったかな」


「あれ血じゃなかったのね、びっくりした」


 二人は顔を合わせて笑いあった。”

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