帰還

 空へと降りた私とカケルはゆっくりと天空の城が遠のいていくのを見つめた。


「助けにきてくれてありがとう」

 カケルが私に言った。


「あたりまえでしょ。あなたは大切な家族だもの」

 二人は手を繋ぎながら笑いあった。


「カケル見て」

 私は天空の城を指差す。


「崩れている」

 カケルは驚いた表情だったが、私の心はどこか安堵していた。


「やっと終わるんだ。私の呪われた運命」


「なんの話だ」


「ううん。なんでもない」

 私ははぐらかし、笑みを浮かべた。


 少しして地上に降り立った私たちを迎えてくれたのは、島袋さんと真美、卓郎、美穂だった。


「二人してどこに行ってたんだ、ご飯にするぞ」

 島袋さんは笑顔で言った。


「ごめんなさい、私たちも手伝います」

 私とカケルは、そそくさとひまわり教室に入っていく。


「今日のお昼ご飯はオムライスだぞ」

 島袋さんはいつもより楽しそうだった。


 みんなの分のオムライスが、テーブルに配膳されたところで突然美穂が泣き始めた。


「どうした」

 カケルが美穂の顔を覗き込む。


「カケル兄ちゃんとお姉ちゃん、やっと帰ってきた」

 泣きながら言ったその言葉に、私とカケルは驚く。


「大袈裟だな美穂は、たったの一時間ほどだろう」

 島袋さんは美穂をなだめるように言ったが、美穂が泣き止む気配はなかった。


「美穂ぉ、拭いてくれえ。このままじゃ兄ちゃんケチャップ星人になっちゃうよお」

 オムライスのケチャップを口の周りにわざとらしくつけたカケルは、ふざけて言ってみせた。


「カケル兄ちゃん大丈夫だよ、拭いてあげるからケチャップ星人にならないよ」

 慌てた美穂は、カケルの口についたケチャップを拭いてあげていた。


「助かったぁ」

 カケルは美穂を抱き上げ元いた場所へと座らせた。

 

 楽しい食事も終わり、私とカケルは中庭に出た。


「石はまだ持ってるのか」

 カケルが私に聞いた。


「そういえばいつのまにかなくなっていた」

 ポケットの中を探したが見当たらなかった。


「全部終わったのかな、私は一体だれだったんだろう」

 私は空を眺めながら呟いた。


「おまえはおまえだろ。リーナ」


「リーナか、この世界だと不自然だから私は私の名前をさゆりにしていたんだ」


「不自然ではないと思うけどな。気になるなら、俺が名前を決めてやる」

 カケルはしばらく考え込むと、一つの答えに辿り着いた。


「よし、今日からおまえはリナだ」


 カケルからの思わぬ提案に、私は口を覆い頬を赤らめた。


「素敵。リナ、私は今日からリナよ」


「そんなに喜ぶか」

 カケルは鼻で笑っていたが、私はカケルに名前をもらえたことに特別な喜びを感じていた。

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