2 魔女なら杖ものろいもまじないだって、よりどりみどり?
「え……?」
星香の言葉に、ドイツ生まれのお母さんゆずりだろう青い瞳を見開いたエリィが、自分の席に座ったまま、かすれた声をもらす。
「し、知らない……っ! わ、私、綿木先生に何にも……っ!」
ふるふると首を横に振るたび、ほどかれたままの黒髪がさらさらと揺れる。日本人とは彫りの深さが違う人形みたいに愛らしい顔は、血の気が失せて蒼白だ。
「そうだよ! 小柄なエリィが、綿木先生に何かできるわけがないだろ!」
クラスメイトの心に根を張りかけた疑惑を晴らそうと、ぼくはことさらに大きな声を上げる。
「ほら、
クラスで一番体格のいい大輝にたたみかけるように問いかける。クラスで一番背の高い大輝と小柄なエリィとじゃ、まるで大人と子どもみたいだ。
男子のリーダー的存在である大輝がうなずいたら、きっと流れが変わるに違いない。
そう期待して大輝を見つめるが、大輝がうなずくより早く。
「でもさ、魔女ってたいてい大きな杖を持ってるだろ。『魔女の一撃』って言うなら、杖を使えば体格なんて関係なしに、立派な『一撃』になるんじゃね?」
ぽんっ、と両手を叩いて口を開いたのは
「そんなことを言ったら、誰だって道具を使えばいいって話だろ!?」
ぼくはすかさず一馬に突っ込む。
「杖だったら一馬、お前だって似たようなもんじゃないか!」
「えっ、俺!?」
ぼくの指摘に一馬が目を丸くする。かと思うと、ぶんぶんと両手を振り回した。同時にばさばさと音が鳴る。
「いや、無理無理無理! 俺だと、俺を振り回す共犯が必要になるじゃん! っていうか、俺は魔女じゃないし!」
共犯って……。
一馬のひとことに、クラスメイト達がざわめく。
犯人捜しをするような重苦しい雰囲気が、教室の中に立ち込める。
「わ、私……っ。杖を人を傷つけるために使ったりなんか……っ」
エリィが泣きそうな声でかぶりを振る。
あ、やっぱり杖持ってるんだ。
変なとこに感心するけど、今はそれどころじゃない。
何とかこの嫌な雰囲気を変えないと、とあせっていると。
「でもさ。魔女だったら杖を使わなくても、のろいとかまじないとか、そーゆーのもできるんじゃないの?」
わーっ、珠希! 余計な口をはさむなよ~っ!
……それと、言っとくけど、「のろい」も「まじない」も漢字で書いたら一緒だからな。
「わ、私、そんなことしない……っ!」
自分に注がれるクラスメイトのまなざしが厳しくなったのを敏感に感じ取ったのだろう。
エリィが震えながら、必死に訴えかける。
「『しない』ってことは『できない』ってわけじゃないんだ?」
エリィの言葉尻を捕らえて、珠希がつっこむ。細くなった目は、ねずみをいたぶる猫みたいだ。
「それ、は……」
震えながら唇を引き結んだエリィが、言葉を途切れさせてうつむく。
ぐすっ、と小さく鼻をすすりあげる音が耳に届いた瞬間、ぼくの体は勝手に動いていた。
「珠希、いいかげんにしろよ! 星香も聞きかじっただけの言葉を言いふらすなんてよくないだろ!」
エリィの小柄な体をかばうように机の前に立ち、珠希と星香に厳しい声を投げかける。
「な、何よぉ」
責められた星香がぷくっと頬をふくらませる。
「だって、気になる話を聞いたら広めたくなるのは仕方がないでしょ!? それが『
「それに、魔女だったらほんとに綿木先生にのろいをかけられるかもしれないでしょ!」
珠希も針のように
「魔女が
「そうかもしれないけど……。でも、短いつきあいだって、クラスメイトはクラスメイトだろ? それなのに疑うのはよくないと思う」
珠希の目を真っ直ぐに見返して、きっぱりと言い切る。
村にたったひとつしかない
そんな中、最近、転校してきたばかりのエリィが、本当に珍しくて浮いた存在だっていうのはわかる。
だって……。ぼく達はみんな、日本生まれの妖怪ばかりなんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます