それぞれの過去と思い 二十三話

「おい、そろそろ帰るぞ」


クリストンと話しているとイリスがやってきた。イリスはどこか不機嫌そうだ。


「もうそんな時間?!楽しくて時間忘れていたわ」


「それじゃあ戻りましょうか。エスコートします」


クリストンがルーミに手を差し出す。


「大丈夫ですよ。こいつは一人で戻れます」


横からイリスが二人の間へと入ってきた。クリストンにやたらと敵意を剥き出している。そんなイリスに怒ることなくクリストンは対応した。


「そうですか。それでは一緒に向かいましょう」


お構いなくルーミと屋敷へと戻った。するとクリストンにたくさんの女性が詰め寄る。ルーミは追い出されてしまった。


「あらら、クリストン人気ね」


「お前はすぐ男に引っ掛かるな。いつか男に振られてそこら辺彷徨ってそうだな」


イリスは嘲笑いながらルーミを見下ろす。


「そんなわけないでしょ。これでも男を見る目はあるのよ」


「どこがだよ。あんな男にすぐ落ちるのに」


「別に落ちてないわよ。それに、私の見る目が悪かったらあなたを誘っていないわよ。あの館でイリスを見つけてピンっときたの。あの子なら上手くいけるって。そのおかげであなたは今ここにいるのだから」


ルーミはえっへんと鼻を高くしながら話す。イリスはジーッとルーミを見つめた。


「ハッ、そうかよ」


「何よその反応」


真剣に話したのにイリスに鼻で笑われた。


「そんなあんたこそ女の子寄ってこなくて寂しいんじゃないの?」


指をイリスに向ける。  


「別にいいんだよ、おれは」


「そうやって強がっちゃって」


「なんだと?!」


ルーミとイリスはまた喧嘩を始める。二人の言い合いはいつになっても終わらない。周りの人たちもちらちらと二人を気にして見ていた。


「あの」


二人の間に赤のドレスを着てイリスと同じ赤色の髪の毛の女の子が立っていた。イリスよりも少し薄く、紅色で綺麗な髪の毛だった。


「すみません、少し、お話ししませんか?」


女の子の目に映っていたのはイリスだった。ルーミは驚きつつも、これはチャンスだ、と思い


「ほら、イリス行ってあげな。可愛い女の子を振るとかしないよね?」


耳元で圧をかける。イリスはうげっとした顔で渋々承知してくれた。ルーミはついにイリスに青春が降り注いだ、と満面の笑みを浮かべて見送った。


イリスがいなくなると次はルーミの元に男性が近づいてきた。


「お嬢さん、僕と少しお話ししませんか?」


「いやいや、僕と」


「そこは俺でお願いします」


初めてここにきた時のように人々が詰め寄ってきた。どれもこれもこの美貌のせいか。神様、本当にありがとう。ルーミは心の中で嬉し涙を浮かべながら天に拝む。


「さあ、早く行こう」


そんなことを考えていると一人の男性に腕を掴まれた。ルーミはその瞬間ゾワッと寒気が全身をつたった。いやだ、触らないで。


「やめろ」


気づくとルーミの後ろに誰かが立っている。その人は男性の腕をルーミから振り払ってくれた。男性はビクッと震えて去っていった。


「あ、ありがとうございます」


振り返り頭を下げると


「…別に」


どこかそっけない。どこかで聞いたことのある声だ。

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