それぞれの過去と思い 二十一話
その場にいた人々みんな驚く。おじさんも目を見開いている。一三七チップは千三百七十ドル。日本円に直すと137000円。お菓子何個かえるのだろう。そんなことを考えながらチップを出す。おじさんは驚きつつもチップを出した。その顔は驚きから自信満々の顔へと移り変わった。
「ほう…」
クリストンは驚いているが、感心しているようにも見える。ルーミは自信満々だ。
「それじゃあいきます」
トランプが配られる。スッと手にしてトランプを見る。ルーミはフッと笑っている。
「それでは、始め」
ババ抜きは止まることなくスムーズに進む。そして運命の二枚から選ぶ最後の引き。ルーミは躊躇わずジョーカーではない方をとった。
「あがり!」
おじさんはポカーンと口を開けていた。百三十七枚のチップがルーミに追加される。
「すごいな、負けちゃったな」
おじさんは驚きを隠せない様子でルーミを褒めた。
「あはは、運ですよ」
「そうかそうか。それじゃあもう一回やらないか?」
「はい。いいですよ。賭け金は?」
「274。君の全チップだ」
「…わかりました。始めましょう」
ニコッと微笑む。ルーミは余裕を見せている。
「はい、私の勝ちですね」
ルーミはパラっと二枚のトランプを置く。これでルーミの合計チップは548。元々の十倍儲かっている。おじさんは怒るのかと思ったら、逆にルーミを褒めた。
「君、気に入ったよ。少し二人で話さないか?」
一瞬、気持ち悪く感じたが、ルーミも言いたいことがあったので承知した。ベランダに出るとおじさんはグラスをくれた。おじさんのつけている緑色の仮面が少し曲がっていた。
「いつから気づいていたんだ?」
最初の一言にルーミはおじさんが何が言いたいのかわかった。
「まあ、最初のゲームからですね」
「大人でも気づかないのに洞察力がすごいな」
「まあ、カジノっていうのはイカサマがあたりまえゲームなんですから最初から疑うもんですよ」
友達とトランプをしている時によく友達がイカサマをしていた。だから自分もイカサマをしたりしていた。こう言うのには慣れているのだ。
そう、おじさんはイカサマを使っていた。
「透視、みたいなスキルをお持ちなんでしょう?」
「はは、ああ、そうだよ」
意外にあっさりと認める。悪い人ではないのか。
「この能力を使ってたくさん人を騙してきたんだがな」
「けれど欠点がありましたね。そのスキルは二枚見透かすことはできない」
「ああ、そうだ。そこまでバレていたら負けだな」
「まあ、少しどうしようか考えましたけどね」
「まさか二枚重ねていて私にジョーカーをとらせるとは、実に面白い発想だな」
おじさんははっはっはと笑いながら言う。大したことじゃないけれどね。ジョーカーを引いた時、トランプを二枚重ねて相手にとらせた。おじさんは外側のトランプしか見えていなかった。だからジョーカーを二枚目に重ねた。
すると運良くそこにおじさんが目をつけ引いてくれた。引いた後のおじさんは一瞬強張っていた。、
「けれど、三回目の時なぜジョーカーを引かなかったんだ?君躊躇わず引いていたがジョーカーには一切手を出さなかった」
「そこは私もイカサマを使いましたよ。ちょっとしたね」
ルーミはテヘッとした顔で笑った。
「ほんと面白いな。とても楽しめたよ。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ久しぶりに楽しめました」
二人は握手して戻った。
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