それぞれの書こと思い 十八話
「…ライ…」
その場が静まり返る。ルーミとイリスは同時にライを見た。ライは無言のままだった。
10分前。
「話ってなに?」
威嚇しながらルーミが聞く。
「まず、アンドリーヌを攫ってしまい申し訳ない。まさか、情報が伝わっていないとは思わなくてな」
「そんなヘラヘラしながら謝られても。それにわたしたちじゃなくてオースタさんに謝ってください」
「それなら安心しろ!もう話は済んである」
サイジの言葉と共にノックの音がした。
「どうぞ」
入ってきたのはオースタさんと
「マスター…?」
ライも驚いて二度見している。オースタさんは笑顔で三人に挨拶した。
「お久しぶりです。この度はありがとうございました」
「あなたたちがこの子のことを支えてくれてた子たちね。私からもお礼を言うわ、ありがとう」
「あ、いえいえ!こちらこそ色々と体験させていただきましたので」
ライはニコッと微笑んだ。それを見たサイジは立ち上がり三人を見た。
「実はな、アンドリーヌにはここのシェフをやってもらおうと誘ったんだ」
「え?」
「え?」
「は?」
三人はそれぞれ一言ずつ発していった。一瞬サイジが何を言っているのか分からず、試行錯誤して理解できた。アンドリーヌさんがサイジの屋敷のシェフ?
「えっと、アンドリーヌさんもそれは承知の上でここにいらっしゃるんですか?」
「ええ、こんな機会滅多にないですもの。喜んで引き受けました」
アンドリーヌさんは不満のない笑顔を振る舞う。
「実は街でアンドリーヌの作ったご飯を食べた時にピーんときてな。誘ったら引き受けてくれたんだ」
三人は呆れて肩を落とした。大きなため息が部屋中を充満する。
「じゃ、じゃあ、どうして変装させてまでアンドリーヌさんを連れてきたんだ…。普通に頼み込めばよかったんじゃないのか?」
珍しくイリスも呆れている。声が沈み返っているのだ。
「いや、急に言ったらおかしがられるかなと思って」
「いやいや、変装させて連れてくる方がおかしいわ!」
ルーミは素っ頓狂な声で言った。今までの努力はなんだったんだ…。その場にいたルーミとイリス、ライは同じことを思っていただろう。
「ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」
アンドリーヌがさっきまでの笑顔は消えて申し訳なさそうに謝ってきた。
「アンドリーヌさんは悪くないですよ。悪いのは…」
チラリとサイジを見る。サイジはてへへ、と頭をかいている。
「あ、今回のパーティーのご飯は私が作りました。ぜひたくさん食べてください」
「あ、楽しみにしてます」
「それでは私はこれで。仕事がありますので」
「はい。頑張ってください」
「ありがとう。あなたたちもその服似合っているわ」
嬉しそうにしながらオースタとアンドリーヌは部屋を出た。
コンコン
「どうした?」
「失礼します」
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