それぞれの過去と思い 十二話

村であの子に会い、母親を見て俺は彼女にある提案をした。


「君のお母さんの治療費は何ドルかかるんですか?」


「……5万ドルです」


「それを私がだすと言ったら?」


すぐに返答はかえってくると思ったが意外にも返ってこなかった。彼女は俯いて考え込んでいる。


普通の人ならすぐにこの提案にのるというのに。


「…それは……できません。そんな大金をもらうわけにはいけません」


「けれどそうしなければ、あなたのお母さんはいつまでたっても治りませんよ?」


その言葉に彼女は唇をかみ締めていた。これならのってくるだろう。


しかし予想外の答えが返ってきた。


「私のスキルは変装と想像です。私は記憶力がよく、一度会った相手ならば誰にだって変装できます。それに、一度目にしたものはずっと頭の中に残るのでいくらでも想像でものを作ることが出来ます」


急に自分のことを話し始める。一体なにを言い出そうとしているのか。


「何が言いたい?」


「私に、5万ドルの価値はありますか?」


一瞬驚き、すぐに平然を取り戻す。そして、フッと笑った。そう来たか。


「ある……と言ったら?」


「私を買ってください。そして、そのお金で私の母を助けます」


面白い。自分の命を代償に母親を助けるということか。


こんなことを言ってくるやつは今まで出会った中でいなかった。だんだんこの少女に興味が出てきた。


「その提案、のろうではないか」


ニヤッと口角をあげて言う。


「明日には5万ドル用意しておこう。それまでにやり残したことをやりな」


席をたち部屋を出る。ベッドに横たわる母親をもう一人の女の子が見守っている。


ああ、この子はどう思うのだろう。母親のために命を捧げる友人を。そして、自分のせいで命を捧げてしまった娘を。



次の日、5万ドルを彼女に渡した。彼女は手紙と一緒にもう一人の女の子の家に置く。


「挨拶しなくていいのか?」


「……はい。そしたら絶対引き止めてくれるので。だから、何も言わずに去ります」


それから彼女はスキル【想像】で自分の分身を作り崖から落とし、自殺と見せかけた。


また、スキル【変装】で外見を変え、本当の自分を消した。名前すらも。




「これが事実さ。俺は特に何も悪いことしてないだろ?」


自信満々に言い、やれやれとした表情でライを見る。


ライは無言で地面を見ている。


「だったら、なんで魔物を作ったり、マスターを攫ったりしたんだ?」


「ああ、それは…ここではなく違うところで話そう」


そう言い、館に入っていった。着いていくか並んだが、真相を知りたいのでサイジに着いていくことにした。


「おばさん。空いてる部屋一つ貸してくれ」


「はい、奥の宮の部屋をお使いください」


「ありがとよ」


鍵を受け取ると三人を見た。


「着いてこい」

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