それぞれの過去と思い 六話

「だから俺はこの世界に来た。だが、大人を信じようとは思わない」


「……そうだったんだ」


初めてイリスの本心を聞けた。イリスにも重い過去があったのか。


「話してくれてありがとう」


ルーミがお礼を言った。みんなこれまで自分の過去を教えてくれた。……自分はなんにも話していない。


「……私もね、両親亡くなってるんだ」


「……え?」


「私が五歳の頃赤信号で走ってきた車と衝突して両親は亡くなった。私もその時同じ車に乗ってたの。私はお母さんが守ってくれたから生きてられた。けど、事故のショックで記憶を失ったの。だから親の顔は覚えてない。その後はおばあちゃんとおじいちゃんに引き取られて育った。たまにおじいちゃんが、両親の写っている写真を見せてくれるんだけど、私が事故のことを思い出して、発作を起こしちゃって見れないの。だから私は両親の顔は知らない。知ろうとしたら、事故を思い出して怖くて自分を責めてしまうから。事故のことを知ったのは私が中学の時おばあちゃんが教えてくれた。それまでは、お父さんとお母さんは離婚してお父さんはどこかに、お母さんは海外に行ってるって言われてた。私は事故のことを知った時ショックだった。私のせいでお母さんが死んだんだって。けれど、お母さんが命をかけて守ってくれたこの命は大切にしようって思ったの。ここの世界に来た理由は……女神の気まぐれだった……」


最初には真剣に話しを聞いていたライとイリスは最後の言葉にガクッとした。


「め、女神の気まぐれで来たんだね」


「うん。私も驚いたけど、新しい世界もいいかな、って思って。イリス。イリスが家族を失った気持ちは私には分からない。家族との思い出が私にはないから。だけど、私達の目標は同じよ。だから、これからもよろしくね」


ニコッと笑って手を出した。いつもなら振り払うが今回は手を握ってくれた。


「さあ、今日はここでお開きにしましょっか。チュラさんのことはまだ上の人には話さずに私たちだけで進めましょう。けれど、少しでも危険と感じたら辞めましょう。これでどう?」


ライがまとめてくれた。


「うん」


「明日、明星の森に行こう。もしかしたら想像のスキルを使ったこん席があるのかもしれない」


「そうだね。じゃあわたしはマナを温存しておくわ。オースタさんにも明日は休暇をとるよう伝えておく」


「ありがとう。ライ」


「今夜は明日に備えてしっかり休みましょ」

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