3. 何語ですか?

 悪役令嬢役を引き受けることになり、台本を渡されたが、その台本は日本語で書かれていなかった。


「あの、これ、何語ですか? 私、読めないんですけど……」

「ああ、これはランドレート大陸語ですね。大丈夫、準備期間中に覚えればいいですから」


 ランドレート大陸語なんて、聞いたこともない。どこの国の言葉だろう?


「とても準備期間中に覚えられるとは思えないのですが?」

「七年あれば覚えられるでしょ?」


「七年? 準備期間が七年なのですか?!」

「七年でも覚えらそうもないのですか?」


 私は準備期間が七年もあることに驚いたのだが、プロヂューサーは七年では覚えられないと受け取ったようだ。

「いえ、流石に七年あれば初めての言語でも覚えられるでしょうが……。いや、でも、まったく知らない言語だから……。覚えられるかな?」


「仕方がないですねー」

 不安になる私に、プロヂューサーは呆れた様子だ。

 そう言われても、まったく未知の言語だから予想がつかない。

 それより、準備期間が七年という方が問題なのだが……。


 私がいろいろ戸惑っていると、見かねたプロヂューサーは「喋れるようにはしますから、読み書きは自分で勉強してくださいね。本当は、干渉したくないんですけど、特別ですよ」そう言って私に近付いた。


 そして、私の額にそっとキスをした。


「え! えー〜。今、何したんですかー?!」

「言葉を授けただけですよ。それじゃあ準備はいいですか?」


 キスなどされたことがないため、パニクっている私をお構いなしに、プロヂューサーは話を進めていく。


「準備って?」

「目を覚ましたらロートブルク公爵邸ですからね」


 私の質問は、無視ですか?

 ロートブルク公爵邸って、国内の仕事じゃなかったの?

 いろいろ、パニクっているうちに、私を光が包んでいく。


「これ、魔法陣?!」

「詳しい事は向こうのマネージャーに聞いてくださいね」


 マネージャーがつくのか。それは良かった。


 って、よくないわよ!


 どうやら、これは、国内どころか海外の仕事でもないようだ。

 私は光に包み込まれ、心の準備も済まないまま、次の瞬間には異世界に飛ばされていたのだった。


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