再会 新装開店

「二人とも久しぶり」

 藤田の部屋のドアを開けたのは麻衣だった。


「麻衣、久しぶりだね」

 健人は麻衣の声を聞くと笑顔になった。


「健人、久しぶり」


「ちょっと待ておまえら。どこが久しぶりなんだよ」

 藤田は言う。


「若者の間では、三日以上会わなければ久しぶりなんですよ」

 麻衣が言う。


「そうそう」

 健人も便乗する。


「おまえらな、何度も言うが俺はまだ28歳だっての。人を年寄り扱いするなよ」

 藤田の顔がひん曲がった。


「まあまあ、それで話ってなんですか」

 麻衣が首を傾げる。


「麻衣、CBDは知ってるか」

 藤田はべイプを渡しながら言う。


「もちろん知ってます。今はバスボムなんかでも使われてるよね」


「バスボムにもなるCBDって、いったいなんなの」

 健人は興味を持ち始める。


「さすが麻衣だな。ちょっとこっちに来てくれ」

 藤田は麻衣をベランダに連れて行く。


「ちょっと...全部なくなってるじゃん」

 ベランダから外を見た麻衣は唖然とした。


「この通りなんだ。俺らが汗水流して育てた大麻たちは、もういない」


「...それでCBDなんですね」

 麻衣は顎に手を付けた。


「正直CBDは悩んだ。瞬発力はないと思ったからな」


「確かに。でも私たちには資金はありますよね」


「そう、それだ。髭さんへの返済も間もなく終わるし、大麻で稼いだ金をCBD事業に全振りできる。将来的に美容やリラックスに特化した商品を作れれば、この先も長く続けられるビジネスになると思うんだ」


「それはそうですけど、CBD単体で戦うって相当難しいと思いますよ」


「なんで難しいの」

 いつのまにか健人もベランダに来ていた。


「CBDっていうのはね、知名度もまだ低いの。世に知れ渡ってない物を売るっていうのは、余程の影響力があるか、必需品でなければいけない。CBDは世の中の必需品ではないし...」


「なるほどね。それならオリジナリティがあればいいってことだね」

 健人は言う。


「そんな簡単じゃないわ」


「簡単じゃないことは分かるよ。ただ俺に考えがある」

 健人が言う。


「考えか、言ってみろ。大麻の時も健人のアイデアを参考にしたからな」


「俺みたいな人に売ってみないか。俺らみたいな少数派から支持を得られれば、購入ルートが一定になるんじゃないかな」


「確かに。元々少ないところにアプローチをかけるのは良いかもしれない」

 藤田は腕を組み、首を縦に振る。


「どうやって売るの」

 麻衣は言う。


「ラジオ配信をするのはどうかな。放送の中でCBDの効果なんかを紹介するんだよ。ラジオからCBDへ興味を移す」

 健人は言う。


「いいかもしれない」

 麻衣がつぶやいた。


「俺も賛成だ。盲目の人らに大麻が浸透しているかは分からないが、ラジオ配信ならCBDに興味をもってくれるが作れるかもしれない」


「ラジオ配信は、今後流行るって言われてるし『大麻』のようなテーマは、一般的に生活している人からすると物珍しい」

 健人が言う。


「広報は私がなんとかする。なるべく多くの人に大麻の良さを知ってもらえるように頑張るよ」

 麻衣は腕を組んだ。


「広報もそうだけど、麻衣にはラジオ配信もお願いしようと思ってた。やっぱり女性の声のほうが安心感があるし、親しみやすい」


「私で大丈夫かな」

 麻衣は不安そうだ。


「大丈夫だよ、絶対にいける」

 健人は麻衣に力強く言った。


「媒体はどうするんだ。ラジオといってもそんなメジャーなところがあるのか」

 藤田が言う。


「メジャーなところじゃなくてもいいと思います。例え10人でも興味を持ってくれる人がいれば...そこからは私に任せて下さい」


「藤田さん、麻衣を信じようよ」


「だな。こういった事に関しては麻衣に任せるしかないか」

 藤田は納得したようだ。


「最初に展開するのは『CBDリキッド』だとして、販売までの商品へのアプローチは任せて下さい」

 麻衣は自信満々だ。


「分かった。俺たちが次にすることは、リキッドの制作だ。大麻の時と違って、原料となるCBDと植物由来のテルペン、つまり香りを混ぜ合わせるぞ」


「なんかいきなり科学っぽくなったね」


「確かに化学っぽいかもしれないな。だが、考えているより簡単だから、その辺は安心してくれ。音声機能付きの測りさえあれば、健人でもなんとかなる」


 藤田はそう言うと、押し入れから道具を出した。そして、テーブルに並べた道具たちを健人に触らせる。


「どうだ健人。大麻を育てる道具よりは、ごちゃごちゃしてないだろ。まずは原料の入った瓶だ。そしてテルペン。原料を混ぜ合わせる空瓶と、注射器。あとは煮沸する用の鍋でもあれば十分だ」


「これなら作りたい時に作れるけど、大麻を育てる時よりごちゃごちゃしてるよ...」


「そうかな。俺も作ってみたが、凄く簡単だったぞ。初めの数日は麻衣にも協力してもらって、慣れてきたら一人で作業できるようにしよう」


「健人、一緒にがんばろう」

 麻衣は健人に向かって拳を握った。


「ま、麻衣が一緒なら...」

 健人は内心喜んでいるようだ。


「おい健人、顔に出てるぞ」


「か、顔に出てるってなにがだよ」

 健人は焦っている。


「なんでもないよ。この道具も健人の部屋に持って行こう」

 藤田を笑みを含めながら、道具をバッグにまとめ始めた。


 三人は荷物をまとめると、健人の部屋へ移動した。


____________________________________________________________________________


「作り方は簡単だ。説明しながら作ってみるから聞いててくれ。まずは...」


 藤田がCBDリキッドの作り方を、詳しく教え始める。一般的な作り方は、材料をよく混ぜ合わせ容器にいれるだけだが、これだけでは他のCBDと変わらない。そこで藤田はオリジナリティを出すために、香りにこだわったのだ。


「完成だ、健人吸ってみてくれ」

 藤田は完成したリキッドを健人に渡した。


「できたては温かいんだね、吸ってみるよ」


「さっきのCBDもよかったが、こっちはもっといいと思うぞ」


 健人は吸い口を咥える。ゆっくり煙を吸い込むと口の中に広がる味を感じた。まもなく鼻の奥に南国を想像させる香りが充満し、肺を通った煙を満足そうに鼻と口から吐いた。


「藤田さん、最高だ」

 健人の表情は和らいだ。


「だろ。これが俺らのオリジナルCBDだ。こだわりにこだわったブレンドが、この味と香りを引き出すんだ」


「麻衣も吸ってみなよ」

 健人はCBDべイプを前に出した。


「ありがとう」

 べイプを受け取った麻衣は、健人と同じように吸い込む。


「CBDも配合によっては、ハイの感覚を味わえるんだぜ」

 藤田は、いつもの得意げな顔をしている。


「おいしい。女の子にも人気が出そうなフレーバーだね。大麻っぽさがなくて、凄くお洒落な感じ。私これ大好きだよ」

 麻衣は目を輝かせた。


「だろ。健人はそろそろ効いてきたんじゃないか」

 藤田は健人を見た。


「うん、確かに効いてきたよ。でもなんだろう、大麻とはまた違うけどになってるような...」


「本当だ。私もハイの感覚がきた」


「やっぱりな、特別な配合をしたんだ。もちろん合法な成分だけどな」


「これで合法なのか。恐るべしCBD...」

 健人はハイの感覚を楽しんでいる。


「そこまで強烈なハイじゃないんだけど、なんて言うんだろう。ミストサウナに入っているような感覚かな。ストレスが発散されていく感じがする」

 麻衣は、部屋にあるソファに腰かけ、気分が良さそうにしていた。


「良い感想をもらえたよ、ありがとう。うちはこの商品を推していくから、味や感覚なんかはよく覚えておくんだぞ」

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