第5話5・来訪者とはじめましての話


 アルカスは物陰に隠れて様子を伺っている。


 来訪者は2人で、両者共に女性だった。


「アタシは光明神ポアローンの使徒、ベニエだ。神託によりこの地を訪れた」


 ベニエは長身の赤髪で、その姿で村の男達を魅了する。


(‥‥ビキニアーマーだ)


 下着としても面積の小さい布切れと肩当てに腰当て。

 腰当ては袋状になっており、矢が収納されている。

 弓は肩から斜めにさげられ、深い谷間に食い込んでいる。


(あれが使徒?エロ過ぎでしょ。あんなのと一緒にいたら好奇か嫉妬の目で見られるだけだし、隣に居たらまじまじ見られないじゃないか)


 どこかから覗き見ているウザスの目の保養の為としか思えない。


(嫌がらせか!)


 もう1人は小柄で髪は白金。

 白いフリルブラウスに黒いショートパンツとサスペンダー。胸の膨らみがなければ、お坊っちゃんと見間違える。

 大それた姿はしてないのに見た目のインパクトでベニエと張り合えるのは、担いでいる武器の所為だ。

 メイスの類いだと思われるが、柄は槍程長く、ヘッドも大きい。

 ヘッドの6枚プレートは良く研がれていて斧の様。刺先は蛇矛になっていて、ハルバードとも言えなくもない。

 斬殺と撲殺をいっぺんに行いそうな、そんな武器だ。


(あの子の方がヤベェ奴かもしれない)


 アルカスは自分とは無関係な使徒であって欲しいと、無駄に願う。


「それはそれはよくぞお越しくださいました」


 村長がお辞儀する。

 四分の一程の年齢な上に不審者にしか見えない2人でも『使徒』と名乗れば権威が生まれる。

 『使徒』と偽ると死よりも恐ろしい呪いにかかる。

 そう教養されているので誰も疑いはしないが、反応は信仰度合いで様々。村長の対応は敬虔な方に入る。


「私の家にご案内致します。そこで御神託についてお聞かせ頂ければ」

「いや、その必要は無い」


 村長が言い終える前にベニエが制す。


「貴方がこの村の代表でいらっしゃいますか?」


 ベニエは少々威圧的な態度なのに対して、もう1人は少々丁寧な口調だ。


「ワタシは守護女神ナテアの使徒、シャルロットと申します。ワタシ達は急ぎ人を探さなければなりませんので」


 と村長宅への誘いを断る。


「人探し‥‥ それが御神託なのですか?」

「そうだ。主神の駒を探しだし、その者の助力となり世界を救う様、申し付かっている」

「『主神の駒』ですか」

「そうです。この村に人外な力を授かった者はおりませんか?」

「おるにはおりますが‥‥ 誰か、アルカスを連れて来てくれ」

「アルカスならここに居ます!」


 アルカスは少しでも時間を稼ぎたい気持ちにかられてゆっくり後退りしている所を村の若い衆に見つかった。

 実際はそうではないのだか、アルカスは首根っこを掴まれて引きずり出された気分になる。


「子供ではないか」


 とベニエ。

 2年近く成長していないのでそう見えても仕方ないのだが、気分は良くない。


「この者はアルカスと申します。背丈は低いですが、間もなく成人の年齢です」

「この者が『駒』だと」

「それは分かりませんが幼少期より力が強く、熊をも1人で狩る程にございます」

(あまり教えないで欲しいんだけどなぁ)


 この期に及んでもそんな事を考えている。


「『神の御子』と言う事か」

「それは違う!僕はウゼスの子供なんかじゃない!」

「不遜な言い草ですね」

「ではお前は『駒』か?」

「気に入らないけど、御子と言われるよりはまだましだ!」

「耐え難い物言いだな」


 2人は弓を引き、メイスを構える。


「ウゼスに許されてる物言いなんだから良いだろ!それに世界を救うとかよりもまずこの村を守るのを手伝ってくれるんじゃないのかよ」

「主神と言葉をお交わしになられたのですか?」


 2人はまた直ぐに構えられる位置に武器を下げる。


「それにこの村に起きる事もご存知」

「ああ。そっちが最優先だし、そもそも世界を救うんじゃなくて邪神の討伐じゃないのかよ」

「この村の事も討伐も含めて救うと述べたまでの事だ」

「言葉の綾って事かい」

「この村に起きる事とは、どういう事でしょうか?」


 村長からしても村での事が最優先で、まずそこを詳しく話して欲しいと思うのが当然。

 段々喧嘩腰になってたアルカスは、村長が割って入ってくれたお陰で少し落ち着く。

 落ち着くと苛立っていたのではなくドギマギしていたのだと気が付いた。


(恥ずかしっ、童貞か) 


 少なくとも、アルカスとして生を受けてからはそうである。

 大人の兆しすらまだない。


「後日、この村に厄災が訪れます。それを防ぐ事もワタシ達の神から申し付かっているのです」

「なんと!それはどの様な厄災なのでしょうか」

「お前は分かるか?」


 ベニエがアルカスに問う。

 主神の御子だと言っておけば態度が違ったのだろうかと言う考えが頭を過る。


(ウゼスの子と名乗るよりはエロい女に見下されてる方が百倍ましだ)


 と思いつつも素直に受け入れられない自分がいる。


「熊よりも大きなイナゴの大群が襲ってくる」


 アルカス発言に村人は驚く者よりも戯れ言だと薄ら笑う者の方が多い。

 アルカス自身も突飛だと自覚している。


「ほう。それを何処で知った?」


 使徒が否定しないので村人の顔から笑顔が減っていく。


「夢で。ウゼスに未来を見せられたんだよ」


 思い出すだけでも気が立つ。

 使徒は顔見合わせて頷いた。


「ポアローン様の予言と一致する。すまなかった、お前が神の駒で間違いない様だ」


 2人が頭を下げる。


(試されてた?)


 試行の為の態度だったとしても横柄に思えたが、女性に頭を下げられたら怒りなど消えてしまう。


「神々の命に従い、お前に手を貸そう」


 態度はそもそもだった様だ。

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