第4話4・ほぼほぼ脅迫な話


 気が付くとアルカスは村の外に居た。

 何故そこに居たのか分からない。

 振り返ると村から煙りが上っている。

 わけも分からず、不安に駆られて村へと走り出す。


 村の至る所から火の手が上がり、熊よりも大きなイナゴが家屋を潰し、村人を食べている。

 助けなくてはと思ったが、母と妹の安否が気になる。

 アルカスはまた走り出した。


 自宅は無事に見える。

 安堵しながら扉を開けると、向かってきた方からは見えない家の奥半分が倒壊していた。

 そこに1匹のイナゴ。

 脚の下の瓦礫にメーネが埋もれている。

 反芻でもしているのか、イナゴの口からレピーの上半身が飛び出した。

 アルカスの方を見る目に生気は無い。


「!!!」


 アルカスが叫ぶが声が出ない。

 喉を押さえると感触がない。


(ゆめ‥‥?)

「予知夢と言えば分かるかのぉ」


 レピーの口だけが動き、彼女とは違う声が発せられる。

 聞き覚えのある緊張感のない声。


(ウゼス)

「久しいと言う程でもないか」

(なんの用だ)

「相変わらず不遜な言い草じゃのう。流石に慣れてしまったぞ」

(だから何の用だ)

「お主、いつまで経っても祈りを捧げんではないか」

(承知はしてない)


 本当は忘れていた。そもそも祈るつもりはなかったが。

 現実では無いにしろ妹の体を使って喋る神に嫌悪感著しい。


「では今回はちゃんと返事をさせてから手を下そうかのう」

(どういう事だ?)

「お主の返答次第でこの未来を変える手段を与えよう」


(‥‥ずっと村から出なければ防げるんじゃないか?)


 声の出ないアルカスは思念でウゼスと会話している。

その所為で語りかけていなくても思った事が伝わってしまう。


「見るがよい」


 場面が変わり、村の上空に移った。

 一瞬びっくりしたが、夢だと分かっているので直ぐに冷静になり村を俯瞰する。

 そこには1人で大量の巨大イナゴと戦うアルカスがいる。

 村は崩壊し、村人は全滅。

 残るは彼が必死に守るメーネとレピーだけ。

 倒せない相手ではないが1人では捌ききれない程の数。

 アルカス自身も傷を負い動きが鈍っている。


(!)


 前の敵に気を取られた隙に別のイナゴがメーネ達を丸飲みにした。

 そのイナゴが上空を見上げる。


「お主1人では防ぎきる事は出来んぞい?」

(だったら助けを呼んで来る)


 また場面が変わり、今度は村の前で立ち尽くして居た。

 村は壊滅している。

 そこに居た1羽の鷲が喋り出す。


「お主が村を離れ助けを呼びに行った末路じゃ」

(だったら誰かに行って貰えばいい)

「実際に被害にあわないで誰が信じる?呼びに行く輩も呼ばれて来る輩ものんびりして結局間に合わんのではないか?」

(だったら家族だけでも父の所に行かせる)

「確かにそれならお主の家族は助かるが村はどうじゃ?村が無くなったらお主の言っていたスローライフとやらは送れないのではないか?」


 この村でなければ送れない訳では無いが、見殺しにしたら後味が悪すぎる。

 他に策を興じてもウゼスに邪魔をされそうに思える。


「邪魔はせん。せずとも状況は変わらんからの。お主が我の願いを聞き入れてくれるなら助っ人を向かわそう」

(‥‥どうすればいい)

「我は寛大じゃからのぉ、選択肢を与えてやろう。我に忠誠を誓うか、我の依頼を受けるかどちらか選ぶが良い」

(‥‥ムカつくな)


 忠誠を誓えば邪神の討伐を命じられるし、依頼を受けても邪神の討伐だろう。

 だったら忠誠なんて絶対に誓わない。


(依頼を受けます……)

「ふぉっふぉっふぉ。では契約を交わすとしようか」


 鷲の嘴が光り出す。


「右の甲を差し出せ」


 言われるがまま右手を差し出すと、鷲は薬指の付け根をつつく。

 すると光が薬指に移り指輪の様になった。


「契約は完了じゃ。もし故意に違える様な事があればお主の家族に災難が起こるであろう」

(なっ、そんなの聞いてないぞ!)

「違反には罰が付き物じゃろ?お主はお主の身に起こる事はではへこたれないからのう。その代わり、依頼をこなす度に何でもとはいかんが1つ願いを叶えてやろう。」

(こなす度ってなんだ。邪神の討伐だけじゃないのか?)

「邪神が1人だと誰が言うた? その内に2人の使徒が村を訪れる。その者達がお主の助けに成であろう」


 そう言い残して鷲は飛び差って行った。



 アルカスは目を覚ますと大量の汗を掻いていた。

 外が騒がしい。

 どうやら来訪者がいるようだ。


(早すぎだろ。あいつ僕が折れるのを予測してやがったんだ)

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