第4話 パッセンの頼み

 日が高くなってきた。

 お腹が鳴る前に、動き出さないといけない。

「どこへ向かうのですか?」

「パッセンに会いに行くんだ」

「パッセンさんとは、どういう方なのですか?」

「それは――」

 十代半ばの少年のように見えるセンタの話によると、パッセンという男が船について詳しいらしい。

 センタの知り合いのパッセンに、船について聞くことになった。

 いまいる港町で、すぐに目的の人物を見つけたセンタとトラン。

「よう。センタじゃないか」

「こんにちは。パッセン」

「はじめまして。パッセンさん」

 あいさつする二人。にやにやしたパッセンが、何も言わなかった。

「船をくれないか?」

 単刀直入たんとうちょくにゅうに、センタが頼んだ。

 トランは、いきなりぶしつけではないかと思った。とはいえ、ここはセンタに任せるしかない。少女は黙っていた。

「頼みを聞いたら船をあげてもいいぜ」

 その言葉を信じて、パッセンの目的を達成することにした少年のように見えるものと少女。お互いに目を見つめ、うなずく。長いまつげが動いた。

「頼みとは、なんですか?」

「教えてくれ」

「そうか。頼みってのは――」


 パッセンの頼み。それは、モンスター退治だった。

「大丈夫、なのですか?」

「平気だよ」

 すでに戦いは始まっていた。広い黄色の花畑で、巨大なトロール相手に一歩も引かないセンタ。

 トランはおびえている。肩までのびた髪が揺れた。

「きゃっ」

「おじいさんが、『話しても分からない場合には力を使ってもよい』って言ってた」

 あいかわらず雲を噴射する重そうな装置を身体からだにつけたまま、センタは戦っていた。装着している場所は、背中と、腕と、ふとももと、足。

 うれうトラン。いくらセンタが強いとはいえ、相手は巨大なモンスター。毎回無事である保証はない。少女は祈っていた。

 その心配をよそに、3発目のこぶしで、モンスターは沈んだ。

 涼しい顔で、センタは目的を達成したのだ。

 タキオン・パワーを使えないことをおぎなって余りある身体能力しんたいのうりょくが、少年にはあった。センタはモンスターを楽々倒せる強さを持っている。

「わたしのタキオン・パワーを使う必要はなかったみたいですね」

 タキオン・パワーとは、魔力のようなものである。

 身体能力しんたいのうりょくの強化のほか、ほかの誰かの傷を癒すこともできるのだ。


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