第二章 新たな出会い

第3話 浮かぶ島々。消えた膜

 草の島。

 宙に浮く島々の一番下に位置するその島で、ふたつの動くものがあった。すぐに、影がひとつに重なる。

 センタとトランは、次の島を目指していた。

 出発前におじいさんの残した地図を見て、行く先は決まっている。西だ。

 トランを横抱きにして走るセンタ。とてつもない速度だ。そのため、トランはがっしりとしがみついていた。ほおを染める余裕はないようだ。

 片道1000キロメートルはあろうかという巨大な島を、センタは一気に走り抜けていた。雲を噴射する装置を身体からだにつけているのに、センタはまるで重そうにしていない。ほどなくして、島の端に着く。

 そこは、港町だった。しかし、港だというのに船がまったく浮かんでいない。

 トランは、嫌な予感を覚えていた。何かがある。そう思えて仕方なかった。船がない理由はなんなのか。知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが半々だった。

「泡が消えている」

 島と島のあいだには、まくのようなものがあった。それが、いまは消えている。

 別の国への移動を妨げていたまくが消えて、交流が可能になっていた。眼下、島よりも下の広大な空間に広がる雲は、茶色。

「そうです。とつぜん、消えてしまって。油断して、落ちてしまったのです」

「なるほどね」

 センタは納得したのか分からない。顔から気持ちを読み取ることができないほど、表情の変化にとぼしかった。

 トランは、なんとかセンタの心を開こうと思っていた。とはいえ、その方法が分からない。少女は、すこしだけほおをふくらませた。

 島と島のあいだに道はない。白い雲でつながってはいる。

 島同士は、歩いて渡ることができない。


「それじゃあ、行こうか」

 いったん下ろしたトランをふたたび抱きかかえようとして、反対される。

「だ、ダメです。きゃあっ」

「どうした?」

 どうやら、センタはジャンプして島同士を渡ろうとしているようだ。

「ちょっと、待ってください」

「跳んで行けるけど?」

 身体能力しんたいのうりょくが並外れたセンタは、島と島を跳んで行くことができるらしい。

「いずれ、行けない島もあると思います。その前に、船を手に入れましょう」

 トランは、先のことを考えて船の入手を提案した。

 この世界の船は、水の上を進む普通の船ではない。白い雲を燃料にした、いわば飛行船。これで島どうしを移動可能。雲の濃い部分が道がわり。

「トランは、どうやってここまで来たんだ?」

「落ちてきたじゃないですか」

「そうか。本来想定していた移動方法は?」

「最初は、船に乗せてもらおうかと思って。でも、上の階層では船が出ていないところもあるそうなので」

「船を手に入れたほうが効率的ってことか」


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