第2話 ふたりの旅立ち

 センタの家。その一室。

 二人が椅子に座っていた。ここは居間。くつろぐセンタとは対照的に、トランは落ち着かない様子。

「おじいさんが言ってた。『客人はもてなすものだ』って」

「ありがとう、ございます。センタさん」

「気にするな」

 少女は、あまり露出ろしゅつが多くない服装。それでも、服の上から年相応の健康そうな姿態したいであることがわかる。センタと同い年くらいの、十代半ばに見えた。

 お茶を飲み終えて、トランが口を開く。

「センタさん。お願いがあります。わたしに力を貸してください」

 トランは真剣なまなざし。少女の長いまつげが動いた。

「タキオン・パワーなんて、ボクは使えないけど」

「タキオン・パワーではなく、センタさんの力です」

 少年のように見えるものは、自分の手を見ていた。華奢きゃしゃで、とても大きな力があるようには見えない。

「力?」

「この世界を、崩壊から救いたいのです」


 センタの回想。かたわらには、おじいさんの姿。

 いまと変わらない姿のセンタと、おじいさんが、台所で話している。

 冷蔵庫の横に、曜日ごとの当番表が張ってあった。それにはふたりの名前。ひとりはセンタ。もうひとつの名前は、サクセット。

「いいかい。センタや。困ったときはお互いさま。力を貸してあげるべし」

「どうして?」

「そうか。そうさな。お前の知りたいことを、その人が教えてくれるかもしれんからな」

 おじいさんは、穏やかな顔をしている。センタは、無表情だった。

「なるほどね」

 そのほかにも、いろいろなことをセンタは学んだ。

 そして、おじいさんであるサクセットは、帰らぬ人になった。


 センタの家。その居間。

「行こう」

「よいのですか?」

「おじいさんが言っていた。『困ったときはお互いさま。力を貸してあげるべし』って」

 サクセットおじいさんの言葉。どうやら、少年のように見える存在にとっては、とても強い意味を持つものらしい。

「ありがとう、ございます。センタさん」

 少女は、心からの感謝の言葉を伝えた。だが、それがうまく伝わっていないと感じていた。少年の表情がほとんど変わっていないからだ。トランが、うれいをびた顔つきになる。

 珍しく、センタから口を開く。

「ボクには、故郷がどこかわからないんだ。記憶がないから」

「ここ、草の島ではないのですか? まくがあって移動できませんでしたし」

「わからない。おじいさんが違うって言ってたから、違うんだと思う」

「そうですか。故郷、見つかるといいですね」

 トランは、心の底から願っていた。センタの故郷が見つかることを。望みが叶うことを。

 家から出るふたり。

 空高く、一番上の雲を指差すトラン。ひらひらとした服が、風でなびいた。その表情は生き生きとしている。センタとは対照的に。

 こうして、センタは、トランとともに旅に出ることになった。

 島々の一番上を目指して。

 しかし、そこはまだ誰も到達していない前人未到ぜんじんみとうの地。

 誰も到達していないその場所に、行くことはできるのだろうか。センタの瞳には、迷いはなかった。


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