クラウド・トラベラー

多田七究

第一章 旅の始まり

第1話 空から来た少女

 崩壊する巨大な飛行物体。

 その全長が4万キロメートル以上もある飛行物体が、各部から白い煙をあげていた。いくつかの破片に別れてしまう。

 地上は見えない。なぜなら、茶色い雲が広がっているからだ。

 破片は、それぞれ巨大な島となって宙に浮くことになる。白い雲の上に。巨大な飛行物体の崩壊から、すでに長い年月が流れていた。


 たくさんの島々が宙に浮いている、不思議な光景。

 その世界の名は、タキトピア。

 ただし、太陽はある。いまは、東の低い位置から島々を照らしていた。朝だ。

 島の下には白い雲がある。さらに、それぞれの島は薄いまくおおわれていた。

 その一番下、草の島で、少年のように見える何者かが目覚めた。

 家の中。その一室には、ひとりしかいない。木造の古めかしい平屋ひらや。木造の家具が並んでいる。

「おはよう。おじいさん。センタ、行ってきます」

 ベッドから降りたセンタと名乗るものは、着替えもせずに何かの装置を身にまとった。腕、ふともも、背中。さらに、足にも。角張っていて、何かを噴射するような形状をしていた。


 今日は快晴だ。

 家から出る、少年のように見える存在。気持ちのいい天気だからか、センタが空を見上げる。

 あるのは白。そして、空の青。白いものは雲だ。いくつかのかたまりになって、はるか上のほうまで点在している。

 普通では見慣れない景色。しかし、センタは驚いたような顔をしていない。

 不思議なことに、島々にあるはずのまくが消えていた。

 かすかに音が聞こえた。何かが落ちてきている。

 人だ。

 遠くからは、ひらひらとした服を着ていることくらいしか分からない。あとは、髪が肩までのびていることと、スカートをはいていること。

 タキオン・パワーがあれば、楽に助けることができただろう。それは、魔法のような力。多くの人が持っている、この世界では一般的なものだ。

 センタは、勢いよくジャンプした。そして、少女を横抱きにする。

 タキオン・パワーが使えないセンタ。そのかわり、身体能力しんたいのうりょくすぐれているのだ。

「あ、あなたは、誰ですか?」

「ボクは、センタ。そういうキミは、誰?」

「わたしは、トラン・エンデン。って、そんなことより、このままじゃ二人とも――」

 何も言わず、少年がまとっている装置のスイッチを入れた。とたんに、白い煙のようなものがあたりに充満じゅうまんしていく。

 雲を噴射することで、ゆっくりと下りてくるセンタとトラン。少女のミドルヘアがなびいている。

 センタに抱えられたまま、トランはほうけていた。あどけなさの残る横顔を見て、胸がときめく。

 少年が雲を噴射する装置を装備したのは、人助けのためだったらしい。

 ゆっくりと着地するふたり。トランには、センタの姿が輝いて見えた。


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