第5話 手のひらよりも小さな船

 昼食をとるふたり。

 報告の前に、腹ごしらえをしていた。

「この、パンに具がはさんである料理、いいですね」

「いいか? トランが言うなら、そうなんだろう」

 そして、お金を払うまえに、ふたりは歯磨きをした。センタのぶんの歯ブラシは、トランがあげていた。

「では、行きましょう」

「うん」

 依頼主の元へ戻ってきた、センタとトラン。

「助かったぜ。これで、あっち側に行けるってもんだ」

 パッセンは、モンスターに邪魔されて行けなかった場所に行こうとしていたようだ。 

 約束どおり、船を渡してくれるというパッセン。

 しかし、大きな船はどこにもない。

「こいつさ」

 手のひらよりも小さな船がそこにあった。

 目をらさないと別のものと見間違ってしまうくらいに、船は小さい。

 いぶかしげにするトラン。対照的に、センタはもう礼を言っている。

「ありがとう!」

「で、こいつの使いかただが。センタはどこまで知ってたっけな?」

「最初から、教えてくれ」

「そうか。だったら、教えてやる。まずは――」

 パッセンから、船の使いかたを教えてもらうセンタたち。

 少年のように見えるものは、熱心に聞いているという雰囲気ではない。それに慣れているようで、船の持ち主の男はとくに注意をしていない。

「シー・オン」

 起動キーは音声入力だった。パッセンの言葉で、船が巨大化する。大きな船は雲に浮かんだ。

 目を見開くトラン。初めて見る光景。中層でも、こんな技術はなかった。小型化し、また巨大化もできる機械。目が元の大きさに戻って、少女は冷静さを取り戻した。

「それじゃ、またな。パッセン」

「おう」

「ありがとうございます。パッセンさん」

 ていねいにお辞儀じぎをするトラン。髪が揺れた。少女は礼儀正しい。育ちの良さをうかがわせる。

 甲板かんぱんに上がったセンタとトラン。

「出発するぞ」

「動かしかたをもう覚えたのですか? 聡明そうめいですね」

 船の先端近くにある舵輪だりんをにぎる、センタ。舵輪だりんは、まるいハンドルのような形をしている。

 センタの操舵そうだで、大きな船は次の島を目指した。

「すごい」

「そうか?」

「すごいですよ。こんな大きなものを動かせるなんて!」

 トランは興奮して、ほおを上気させていた。

 島どうしを渡るには、この世界、タキトピアでも船と呼ばれるものが必要なのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る