第2話 1日目 神帝様


 わたしは中学校に向かっていた。その日は風が強い日で、制服のスカートが風が吹くたび、めくれあがるし、スカートを押さえながら、友達との待ち合わせ場所まで歩いていた、はずだった。

思いだしてみると、恥ずかしさがこみ上げてくる。わたしはスカートばかりに気を取られてしっかり前を向いていなかった。それが失敗だったんだ。

 何かが飛んできたと思うと、頭に衝撃が走った。目が電気が走ったようにチカチカした。それが前の世界の最後の記憶。


 「…起きよ。橋本咲奈、起きよ」

 気づいたら、この世界の神様の神座の前で目を覚ました。

 わたしは体を起こして、神様の前に正座した。神様は女神さまだ。40歳くらいだけど、凄いきれいだし、肌の艶がいい。担任のコニタンとは大違い。コニタンは肌はガサガサ。髪はボサボサ。眼鏡も曇ってる。神様はシミひとつないし。やっぱり人とは違うねえ。

 神様は、金色の刺繍が入った朱色の唐衣を着ている。唐衣はゆったりとしていて裾も長くて黒塗りの木靴を履いている。髪はゆったりと結われて艶があって美しい。金色の髪飾りが似合ってる。手指も長いし、爪は長く伸ばしてるけど、ネイルみたいにピンク色でツヤツヤだ。

 わたしには、神様なんだと聞かなくたってわかっちゃった。キレイだし、凄いオーラがあるんだもん。

 わたしが死んだ真相は神様が教えてくれた。強風に飛ばされた、たこ焼き屋の看板がわたしに飛んできて、ガコーンと頭を直撃したらしい。即死だって。バカみたいな死に方だ。

わたしは一生、たこ焼き屋を恨む!恨んでやる!たこ焼きなんて一生たべないし!この世界にたこ焼きがあるかは知らないけど。

 「咲奈、これからはこちらの世界で生まれ変わり生きてなさい。あなたが生きていくために、わらわがこの世界について教えてたもう。まず、あなたがいた世界と大きく違うのは時間の流れです」

 「時間の流れがどう違うのですか?神様」

 「あなたがいた世界には年という概念があったでしょう?が、こちらには年はないわ。日しかない。こちらの時間の流れは早い。10日であなたがいた世界の1年です。つまり10日で一つ歳をとる。体もそれに合わせて成長しますし、老化もします。人の寿命はおよそ1000日です。」

「では、わたしも1000日で死ぬのですか?」

「あなたは違う世界からきたのだから、140日、ここで過ごさせました。あなたの寿命はそうですね。860日ほどですね」

 「えっ、140日も過ぎてるの!時間の無駄じゃん」

 思わず、口に出しちゃった。1000日しか命がないなんて。100日は10歳、200日は20歳、20歳までだとあと、60日しかないじゃん。彼氏も欲しいし、恋愛もしたい。お化粧だって勉強したい。いくらなんでも時間短すぎるよ。

 神様の目が鋭く光った。

「はーっ。あなたを1日目からこの世界で生活させても良かったのよ。だけど、赤ちゃんだと今のお話をしても状況がわからないでしょう?赤ちゃんのまま死んでしまうのも可哀想だし、わたしのところで大切に育てさせたの。わからないようね。じゃあ、もう少し眠らせましょう。起きたら50歳ね」

えっ神様を怒らせちゃった?

待って、待って。もっと眠らせられたら、起きたらおばさんじゃん。そんなのムリ。ごめんなさい、神様。ちょっと、嫌だなって思っただけ。おばさんからスタートってあり得ん。まじで。

「神様、ごめんなさい。大きくなるまで育ててくださりありがとうございまます。命大切にします」

「わかればいいのよ。わたしのことは神帝様とお呼びなさい」

「はい。神帝様」

神帝様はこほんと小さく咳払いをした。

「あなたは前の世界では働かなくちゃいけないわ。こちらには等しく教育をうける権利なんてないから。一人で生きるには働かなくちゃいけないわ」

「わたし、こちらにはお父さんやお母さん、家族はいないんですか?」

「あなたは違う世界からきたから、こちらの人とつながりはないの。家族はいないわ」

そんな、家族がいないなんて。あっちの世界にはお父さん、お母さんがいて、妹もいた。お母さんがごはんを作ってくれたし、洗濯もしてくれた。お父さんは仕事が嫌いっていいながら結構、稼いでたみたいだし。妹とは好きなものは違ってもなんでも話を聞いてくれた。働くなんてもっと先のことだと思ってた。なんか、家族のことを思いだしたら泣きたくなってきた。

「神帝様、わたし、家族に会いたい。会いたいです。どうか前の世界に帰らせてください」

わたしは手を合わせて拝んだ。こちらの世界の礼儀?作法?にあってるかわかんない。何度も手をこすり合わせてお願いする。

「お願いします。お願いします。お願いします。神帝様」

神帝様は黙って、わたしを見下ろしている。微笑んでいるように見えるけど、良くわからない。礼儀を間違えてるのかな?わたしは手を合わせるのをやめて、ひれ伏してお願いする。 

「お願いします。助けてください。なんでもします。神帝様」

「……。」

「…いいでしょう。」

頭の上から神帝様の声が下りてきた。わたしは思いっきり顔をあげた。

「ありがとうございます!!神帝様!!」

「ただし、条件があるわ。一つ目はここでの寿命の1000日まで過ごすこと。二つ目は、他の世界から来たことは誰にも知られないこと。三つ目は皇帝の妃となり、皇帝を支えること」

一つ目の1000日をこっちで過ごすのは、もう140日過ぎてるし、楽勝かも。二つ目は、言葉や態度ですぐにばれちゃうかも知れない。気をつけないと。3つ目の皇帝の妃になるってどうしたらいいかわかんない。支えるっ何?家事をするの?全く見当もつかないよ。

「神帝様、一つ目と二つ目はわかりました。三つ目の皇帝の妃になるのはどうしたらいいのですか?」

「まず、帝都の後宮に入ることね。これ以上はあなたが決めなさい」

後宮ってなんだろう。そこで働けばいいのかな。何を決めたらいいんだろう。自分で決めたことってないよ。毎日の着る服だってお母さんが決めてくれたし。決め方もわかんないよ。でも、家族にあえるなら自分が頑張るしかないのかな。

 頑張れ、頑張れ、わたし。負けるな、負けるな、わたし。

お母さんの口ぐせ。案外、いいかも。

 頑張れ、頑張れ、わたし。負けるな、負けるな、わたし。

「わかりました。3つの条件を守ります」

「よいでしょう。咲奈。こちらの世界では、砂砂(ささ)と名乗りなさい。話し言葉はこちらの言葉に翻訳してあげましょう。約束を破れば、元の世界には戻れません。いいですね………」

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