俺は紳士だ。露出狂じゃない。
アメリア・シュルツに全裸を見られてから、一週間。それからの日々が劇的に変化したということはない。平穏無事な日々に、ため息が出てしまうほどだ。
何故かと言えば、俺が自宅の庭でしかその身を晒さない生粋の紳士だったから、というのは、まず当然として、一番大きな理由は、シュルツさんがあの日起こった一件を口外しなかったことだろう。
もしも、彼女が友人や家族などに話をしていたとしたら今頃、迷惑防止条例違反とかで、逮捕されていたはずだ。あわや露出狂になるところであった。
だから、本当にあの日はひやっとしたものである。
人目の少ない時間。細心の注意を払いつつ、脱ぎ捨てた服。それを慌てて着終えた頃には、すでに彼女の姿はなかったのだから。
その日の登校は、過去例を見ないほどに憂鬱だった。
今日死ぬと言われても、それならそれでいいか、なんて思ってしまえるほどに。
ただまあ、着いてみれば机もロッカーもいつも通り。黒板にも、こちらを攻撃するような落書きはなく、友人たちはにこやかに挨拶をしてくれる。
それはシュルツさんも、同じだ。いつも通り、俺と会話をすることなく俺の後ろの席に座り、いつも通り友人たちと談笑していた。
軽蔑の視線を覚悟していた俺は、平素と変わりないその光景に目を瞬いた。
想像との違いから、逆に怖くなったが、三日もしたら人というのはその状況にも慣れるもので、俺はいつも通りの日常に感謝をしながら、今日までを過ごしてきたのだが……。
どうも二日ほど前から、視線を感じる事が増えた。
最初は気の所為だと思っていたのだが、今日で三日目。
ここまで続けば、流石に気の所為にするのは無理だ。
幸い、視線の主はわかっている。
帰りのホームルームが終わり、いそいそと周囲が帰宅の準備をする中、俺はおもむろに立ち上がった。
「アメリア・シュルツ、さん」
名前を呼ぶと、彼女の肩が跳ねる。
「な、なんだ?」
不安そうな、少し怯えたような顔をシュルツさんはこちらへと向けた。
「話がある。少し残ってくれないか」
周囲がざわりと声をあげた。
「え、何、ここで!?」
「紡木くんって意外と大胆!」
ふむ。クラスメイトに少し話があるぐらいのつもりだったのだが、周囲はそれを色恋と結びつけて、勝手なことを口々に話し始めたらしい。
好奇の視線を一身に浴びながら、シュルツさんの返事を待つ。
「……わかった」
彼女の了承の声を受けて、周囲の声が更に色めきだつ。
それらを無視して、俺は荷物を持った。
「ここでは人目が多過ぎる。少し移動しよう」
「……いいだろう」
そうして、俺たちは二人一緒に教室を出た。
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